ArtSaltのサイドストーリー

音楽、フリーウェア、WEBサービス、食べものなどに関する日記。トラックバック、コメント歓迎。

オーストラリア訛りは大母音推移とは正反対の方向に進化したもの

最近気づいたことがあるのでブログに書いておく。英語のオーストラリア訛り (Australian accent) 。もっと広く言えばニュージーランド訛りを含むオセアニア訛りと言ったほうがいいかもしれない。具体的には以下のような母音の訛り。

  • エイ -> アイ (e.g. day -> die)
  • アイ -> オイ (e.g. bay -> boy)
  • イー -> エイ (e.g. meet -> mate)
  • オウ -> オイ (e.g. row -> Roy)
音声の実例を貼っておく。男性はいわゆるアメリカ英語だが女性のほうはおそらくニュージーランド英語を話している。 "Where shall we meet?" が "Where shall we mate?" のように聞こえてしまう。(この音声ファイルは以前「 EIGODEN 英語伝」に置かれていたが現在リンク切れになっている)。
ニュージーランド英語の例 (MP3)

で、ふと思ったのは、オセアニアの英語の母音変化は14世紀にイングランドで始まった大母音推移 (Great Vowel Shift, GVS) とちょうど正反対であること。

vowel tongue position
Courtesy of Wikimedia Commons

ここで大母音推移を大雑把に整理しておこう。

英語において1350年頃から1600年頃にかけて起きた長母音の変化。最も舌の位置の高い/iː/ /uː/は/ei/ /ou/と二重母音化した。他はそれぞれ舌の位置が一段階高い位置に変化し、/eː/→/iː/, /ɛː/→/eː/, /oː/→/uː/, /ɔː/→/oː/, /aː/→/ɛː/に変化した。

大母音推移(だいぼいんすいい)とは - コトバンク

name, house などの語尾の -e は大母音推移が始まる以前に黙字になっている。言い換えると2音節の語が1音節になり、数百年後さらに大母音推移したわけだ。たとえば name は /na:me/ → /na:m/ → /nɛ:m/ → /neim/ 、 house は /hu:se/ → /hu:s/ → /həus/ → /haus/ とそれぞれ変化。

  • 長母音 [aː] →二重母音 [eɪ] (e.g. name 「ナーメ」→「ネイム」)
  • 長母音 [eː] →長母音 [iː] (e.g. feel 「フェール」→「フィール」, keep 「ケープ」→「キープ」)
  • 長母音 [εː] →長母音 [iː] (e.g. eat 「エート」→「イート」)
  • 長母音 [iː] →二重母音 [aɪ] (e.g. time 「ティーメ」→「タイム」, find 「フィーンド」→「ファインド」)
  • 長母音 [ɔː] →二重母音 [oʊ] (e.g. home 「ホーメ」→「ホウム」, goal 「ゴール」→「ゴウル」)
  • 長母音 [oː] →長母音 [uː] (e.g. fool 「フォール」→「フール」, food 「フォード」→「フード」)
  • 長母音 [uː] →二重母音 [aʊ] (e.g. now 「ヌー」→「ナウ」, house 「フース」→「ハウス」)

大母音推移を表にすると以下のようになる。

Word Vowel pronunciation
Late Middle English
before the GVS
Modern English
after the GVS
bite /iː/ /aɪ/
meet /eː/ /iː/
meat /ɛː/
mate /aː/ /eɪ/
out /uː/ /aʊ/
boot /oː/ /uː/
boat /ɔː/ /oʊ/

Great Vowel Shift - Wikipedia

大母音推移を解剖学的に一言で説明すると、舌の位置が上に少し移動する現象だ。オセアニア英語に見られる母音の変化はそれとはちょうど正反対。舌の位置が下に少し移動するわけだ。もう一度オーストラリアとNZの人たちの母音の訛りを見てみよう。

  • エイ -> アイ (e.g. day -> die)
  • アイ -> オイ (e.g. bay -> boy)
  • イー -> エイ (e.g. meet -> mate)
  • オウ -> オイ (e.g. row -> Roy)

一般的に言って母音が訛って変化するときは舌の位置が下がるほうが自然である。舌の位置を高くするというのは舌の筋肉を緊張させ、酷使することであり、逆に舌の位置を低くするというのは舌の筋肉を弛緩(しかん)させることだからだ。よく知られているように大母音推移は英語の歴史を研究する人たちにとって最大の謎である。というのも、舌の位置が下がるのではなく自然の摂理に反して上がるほうに母音の発音が変化を開始したからである。言い換えるとオセアニアの人たちの訛りのほうが通常の変化なのだ。

different than という形の優位性

"different than" という形は文法違反かもしれないが "different from" よりも便利な場合もある。 from は前置詞なので後ろに節(せつ)が来ない。だが than は接続詞なので後ろに節を置ける。比較対象が節なら than のほうが形としてすっきりしていて理解しやすいのだ。

The Book Of Strange New Things: A Novel

よく知られているように、英語の形容詞 different の後ろには from が来るのが普通だが different than, different to の形もある。ただし文法的に正しいのかどうか議論がある。 different than という形の由来に関しては、 differ の語尾が形容詞の比較級の語尾と同じであることに影響を受けて different の後ろに than が間違って(?)来るようになってしまった、という本当か冗談かわからない噂を聞いたことがある。

この噂の真偽はともかく、 different from, different than, different to という3種類の組み合わせに関しては国によって好みが分かれるんだとか。イギリスやオーストラリアなどに比べてアメリカでは different than の形を認める人が多いらしい。

だが、国によって from, than, to の使用頻度が異なるというトリビアを知っただけで満足してはいけないと思う。というのも different than の形のほうが different from よりも適している事例が明らかに存在するからだ。

最近読み始めた "The Book Of Strange New Things: A Novel" (Michel Faber) という小説の中に different than の形が出てきた。これは地球から遠く離れた惑星に牧師として派遣された男を描くSFだ。(日本語版が出版されているかどうかは不明)。

I once read a Science Ficiton story in which a young man traveled to an alien planet, leaving his wife behind. He was only away for a few weeks and then he returned to Earth. But the punchline of the story was that Time passed at a different rate for her than it did for him. So when he got back home, he discovered that 75 earth years had sped by, and his wife had died the week before. He arrived just in time to attend the funeral, and all the old folks were wondering who this distraught young man might be.

若い男が妻を残して他の惑星に飛び立つSFを読んだことがある。男はわずか数週間後に地球に戻る。だがこの話のオチは、時間が男と妻に対して異なる速度で進んだことだ。男が帰還すると地球では既に75年という時間が経過していた。そして妻は先週に亡くなっていた。男はなんとか葬儀に間に合うものの、そこにいた老人たちは彼を見て戸惑うのだった。この取り乱した若い男は誰なのだろう、と。

The Book Of Strange New Things: A Novel by Michel Faber

"Time passed at a different rate for her than it did for him." という文。これは厳密に言えば文法違反だろう。文法至上主義者は言うかもしれない。 different の後ろには than ではなく from が来るべきである、と。

だがこの文を正規の(?)文法に従って from を使って書き直すとなると意外に厄介であることに気づいた。あえて言い換えるなら下の #2 のように "the way" を使って書き直すしかないと思う。まあ、もちろん他にも言い方はあるんだろうけど残念ながら自分の英語の実力ではこれ以外の言い換えは思いつかなかった。

  1. Time passed at a different rate for her than it did for him.
  2. Time passed at a different rate for her from the way it did for him.

なぜこんな面倒なことになるのか? 理由ははっきりしている。#1 の than が接続詞であるのに対して #2 の from は前置詞だからだ。接続詞は直後に節(せつ)を置くことができるが前置詞はそれができない。前置詞の目的語は名詞または代名詞でなければならない。あるいは「限定詞 + 名詞または代名詞」という組み合わせでなければならない。ゆえにここでは way という万能な便利屋さんの出番となるわけだ。

the way を使って言い換える行為にはある種の強引さがある。この強引さが何かに似ていると感じないだろうか? そう、これは語尾に "-ly" が来る形容詞を無理やり副詞っぽく変えてしまう手法の強引さとそっくりだ。語尾に -ly が来る形容詞というのは具体的に言うと friendly, lively, lovely, early など。これらを副詞のように変えるには "in a friendly manner" のような手の込んだ表現にするしかない。(いや、他にも表現方法はあるのかな?)。そしてこの、居心地の悪さ、あるいはぎくしゃくとした感覚は "Time passed at a different rate for her from the way it did for him." の "from the way..." と非常によく似ていると感じる。

もう一つ事例を出す。

  1. Her behavior was different from what I expected.
  2. Her behavior was different than I expected.

これは単純な文なので different than の形が特に理解しやすいとは感じられない。ただし意味が微妙に違う。微妙な違いだが大きな違いだ。

"Time passed at a different rate for her than it did for him." という文は文法に反しているかもしれないが from を使った形よりも直感的に理解しやすく馴染みやすい。つまり different than の形のほうがはるかに便利だと思われる事例が明らかにあるのだ。だが不思議なことに different than のこの優位性に言及している人を日本語Webサイトの中ではあまり見かけない。

Oxford Dictionary が私の問題意識に応えていた。引用しておく。

It has the advantage that it can be followed by a clause, and so is sometimes more concise than different from: compare things are definitely different than they were one year ago with things are definitely different from the way they were one year ago.

Different than は後ろに節を置くことが可能である点で有利である。そして different from よりも簡潔になることもある。 "things are definitely different than they were one year ago" と "things are definitely different from the way they were one year ago" を比較してみよう。

different | Definition of different in English by Oxford Dictionaries

(日本語に比べて)英語は論理的である、とよく言われるけれど、論理性を追求すると難解で複雑になることもあるんだなあ、というのが私の感想。文法的な正しさ云々よりも理解しやすさを選択したアメリカ人たちに感謝したい。

バイキングが来なかったら英語はユーザー・フレンドリーにならなかっただろう

ジョン・マクウォーター (John McWhorter) の "Our Magnificent Bastard Tongue: The Untold History of English" を読んでいる。 Avery という出版社から2009年10月27日に発売された英語史の本。

マクウォーターの主張は以前このブログ「英語が奇妙奇天烈な言語になったのはケルトとバイキングが原因」で少しふれたが、ここで簡単にまとめておこう。英語に強い影響を与えたのはラテン語とフランス語であることはよく知られているが、それに先駆けてケルト語と古ノルド語が文法を大きく変えた、というのが彼の見解だ。ちなみにケルト語というのはウェールズ語、スコットランド語、アイルランド語など、イギリスとアイルランドとフランスのケルト系諸民族の言語であり、古ノルド語というのはスカンジナビア半島などのゲルマン系諸民族が使っていた言語である。たとえば、疑問文の先頭に「意味のない do 」 (meaningless do) を加えるというアイディアは他のゲルマン諸語には見られない英語独自のものだ。マクウォーターによれば、これはケルト語の影響を受けて誕生したルールだとされる。 "Do you really believe him?"

疑問文と否定文における「意味のない do 」がいかにしてケルト語から英語に入ってきたのかを検証する作業も興味深い。だがここでは、バイキングの古ノルド語が英語の動詞または名詞の格変化に影響を与え、最終的には動詞と名詞の格変化をほぼすべて奪ってしまった経緯を中心にマクウォーターの考えを紹介したい。さらに、たびたび他民族に征服されたにもかかわらず他の言語の影響をあまり受けなかった中国語と、他の言語の影響を強く受けた英語の比較。そして「大陸から隔絶された島嶼の言語」という共通性がありながら運命が大きく変わってしまったアイスランド語と英語の比較に関する合点が行く説明も引用しておく。

Our Magnificent Bastard Tongue: The Untold History of English

英語の文法に与えたラテン語の影響

「文末を前置詞で終えるべきではない」という規則が考案されたのは17世紀である。ラテン語は文末を前置詞で終えることがないのだから英語もそれに倣うべきだという理由による。

"Hey, what are you looking at?" 文末を前置詞で終えることが許される言語は非常に珍しいらしい。

「不定詞を作る前置詞 to と動詞の間に副詞などを挿入してはならない」とする考えは19世紀の盲目的崇拝である。これもまた、ラテン語は不定詞を分割しないという事実に基づいていた。ラテン語では不定詞はわずか1個なのだ! つまりこういうことだ。英語の不定詞 "to end" をラテン語で言い表すには terminare という1語で済む。説明終了! 原子がかつてそう信じられていたのと同様に分割不可。

これも意外なのだが、前置詞 to と動詞の間に何か別の語を挿入することが許される言語は珍しいとのこと。

英語の文法は他の印欧語と大きく異なるだけでなく他のゲルマン語ともかけ離れている

フランス語では英語で言う名詞の copy は copie である。動詞の copy は copier 。だが英語のように屈折語尾の大半を失っている言語では名詞を動詞に変換するには何ら特別な道具を要しない。というわけで copy は 単に copy のままでよいのだ。

中国語ほどではないが、動詞が変化せずにその形のまま名詞化したり、逆に名詞が変化せずにその形のまま動詞化する英語の柔軟な点。

"Do we eat apples?" をフリジア語で言うと "Ite wy appels?" だ。これを語順を変えずに英語に変換すると "Eat we apples?" である。意味のない "do" は置かない。噛み跡がついたリンゴを手にしているフリースラントの人たちがいるとしよう。その場面で「何をしているのですか?」と尋ねられるとフリースラント人は "Wy ite appels." と答える。単純に1語ずつ変換すると "We eat apples." である。彼らフリースラント人は英語ネイティブのためにわざわざ「私たちは今この瞬間リンゴを食している過程にある」などとは言わない!!!! 必要とあらばこう言う - "Wy binne oan't iten." (We're on the eating.) 。

フリジア語 (Frisian) というのはオランダのフリースラント地方 (Friesland) で使われている言語。現存する言語の中では英語に最も近いとされる。ここでは疑問文の作り方の違いが言及されている。英語では文頭に意味のない助動詞 do をつけ加えるが、フリジア語では主語と動詞を倒置させるだけ。それからいわゆる「進行形」。フリジア語だけでなくドイツ語でも現在進行形とか過去進行形は明確な形を取らない。これが明確な形を取って表れるゲルマン語族の言語は英語だけらしい。

進行形という相は、インド・ヨーロッパ語族にもともとあった相の形態ではない。現在、インド・ヨーロッパ語族の言語のうち“be+現在分詞”が進行形の意味を持つのは、英語、イタリア語、スペイン語など、ごく少数の言語に限られるし、これらの言語にしても、最初から進行形を使っていたわけではなかった。英語で、“be+現在分詞”が進行形として使われるようになったのは、1800年前後である。“be+現在分詞”という形態そのものは、古英語の頃からあったが、その使用は稀で、かつ、意味も現在の進行形とは異なっていた。

進行形はなぜ使われるようになったのか | 永井俊哉ドットコム

かつて正当とされた表現が今では間違い、かつて下品だとみなされた表現が今では正しい

19世紀の時点で既に英語の文法は完成し、現代のものとほぼ同じだろう、と考えている人は多いだろう。だが当時の文法学者たちは以下のような表現を低級とみなしていた - all the time (上品な人なら always と言いましょう), born in ("born at" と言うのですよ。知らないのですか?), lit (私が何と言ったかわかる? lighted と言ったんですよ), washtub (なぜ washing tub と正しく呼ばないのでしょうね) など。 standpoint は今日の私たちにとってはどちらかと言うと洗練された語のように響くが、19世紀では唾棄されるべき語だった。理由はおそらく「あなたはどこに *立って* いるのですか?」という違和感。

信じようと信じまいと、"have a look" を "look at" の意味で言うのは少し下品であると考えられていた。"the two first" の代わりに "the first two children" と言うのも同様に下品。

上品な言葉遣いが要求される場面では "The house is being built." のような胡散臭い表現は控えることが求められた。19世紀までは "The house is building." が正しい形だったからだ。"stacked, fixed" を現代の私たちが発しているように発音すると語尾を短縮しているとみなされた。正しい発音は /stækt, fikst/ ではなく /stækid, fiksid/ だった。

現在時制で動詞などの接尾辞が3単現に限って活用する言語は極めて稀である。

例外的に、スコットランドとアイルランドの一部では "am not" の省略形 "amn't" が使われている。

英語はヨーロッパの中では性 (gender) を放棄した唯一の印欧語である。

古い英語から新しい英語に変わるにつれて "hithers, thithers" が消滅しつつある。 "Come hither, go thither," そして "stay here, stay there" 。 "Hither, thither, whither" は「動き」を示す動詞と組み合わさって使われた。それに対して "here, there, where" は「動き」を示さない動詞との組み合わせに限定されていた。英語で発せられる質問 "Where's the coffee?" に対してドイツ語で答えれば "Hier." である。だが "Come here!" はドイツ語で "Komon her!" だ。 "Komm hier." などと言ったら非ドイツ語ネイティブであることがバレてしまう。ドイツ人が英語話者の間違ったドイツ語を真似するとしたらこの言い方をするに違いない。ドイツ語には英語の thither に対応する hin, そして whither に対応する wohin がある。加えて、方向を指示する副詞と場所を指示する副詞についてこの種の区別をしないゲルマン語は存在しない。英語を除けば。

わかりにくいと感じる人もいると思うので少し補足。現代英語の here には "in this place" と "to this place" という2つの意味がある。だが昔の here は "in this place" の意味に特化していた。 "to this place" の役割を担ったのは hither である。英語を除くすべてのゲルマン語系の言語は現代でも両者を融合させずに共存させている。

英語は総称人称に特化した語を失った非常に珍しい言語である

ヨーロッパの諸言語は総称人称に特化した代名詞がある。(…中略…)例外的にアイスランド語では「男」を意味する madur が総称人称として代用されるが、同様のことは他のゲルマン語についても当てはまる。つまりゲルマン語では人称代名詞が細かく分かれているわけだ。以下はスウェーデン語の人称代名詞である。括弧内は対応する英語。

jag (I)vi (we)
du (you)ni (y'all)
han, hon, det (he, she, it)de (they)
man (one) 

対照的に英語ではスウェーデン語ほど細かい区別がない。

Iwe
youyou
he, she, itthey
you 

スウェーデン語には総称人称に特化した代名詞 man があるが、英語では you を引っぱり出してきて無理やりその仕事をさせている。たとえば "You have to be careful with these big corporations." というふうに。古英語にも man という総称人称専門の代名詞があった。だが中英語の時代に入ってから数百年後 man は消失してしまった。

総称人称の代名詞と言えば one, we, you, they だが、英語の駄目な点は、それらが総称人称として使われているかどうか曖昧なところ。 "You must come in here." の you が目の前にいる相手のことなのか、それともこの発言は一般論として「あらゆる人はここに入らなければいけません」と言っているのか、区別することが困難な場面がある。英語では総称人称に特化した代名詞 man が消失したが、他のゲルマン系諸語では健在だ。

生き残った have-完了 (have-perfect) と死滅した be-完了 (be-perfect)

ヨーロッパのほとんどの言語では動詞 have と組み合わせて完了の文を作る。たとえばドイツ語で "Ich habe gesprochen." (I have spoken.) という具合に。と同時に少なからぬ言語において動詞 be と組み合わせて完了の文を作る。たとえばドイツ語で "Ich bin gekommen." (I am come.) という具合に。これは古英語の "Lār āfeallen wæs." とちょうど同じだ。これを現代英語にそのまま変換すると "Learning was fallen away." だが意味は "Learning had fallen away." である。

英語でも be-完了はほんの少しだけ生き残っている。 "They're gone!" ただし be に続く動詞は自動詞に限られる傾向があるようだ。他動詞が使われることはないと思う。さらに言えば、 "They're gone!" の gone は動詞の過去分詞ではなく形容詞であると主張する人もいるかもしれない。

Verb-second のルールを失ったゲルマン語は英語だけ

もしも "Yesterday I saw a movie." という意味のドイツ語を言いたければ動詞 saw は文頭から数えて2番目に置かなければならない。よって主語 I はその後ろである。つまり "Gestern sah ich einen Film." (Yesterday saw I a film.) という語順になる。「動詞は文の先頭から2番目に置かなければならない」という規則は全ゲルマン語に共通する。(…中略…)この奇妙奇天烈な語順を言語学者は verb-second または V2 と呼ぶ。この法則は世界各地の諸言語の中では決して一般的とは言えない。ゲルマン語の系統を特徴づけるものである。

ドイツ語は全くと言っていいほど知らないので迂闊なことを言えないのけれど、ドイツ語の構文には SVO だけでなく SOV という日本語そっくりの語順があると最近知って驚いている。それどころかゲルマン語族すべてで SOV とか OSV などの奇妙奇天烈な形があるんだとか。逆に言うと SVO の語順に頑なにこだわっている英語のほうが少数派なんだね、ヨーロッパの中でも、世界の中でも。

一般のイングランド人と離れて生活していたノルマン人、積極的にイングランド人と共に生活しなければならなかったバイキング

英語はノルマン人 (the Norman French) の手によって単純な言語になったのだとする意見がある。この考えは魅力的だがありえない。イングランドの地にはそれほど多くのノルマン人がいたわけではない。ある試算によるとグレート・ブリテン島民100万ないし200万人に対して1万人だ。ノルマン人は日常的に英語を話す普通の人々の大群衆の中にまみれていた少数のエリート層だった。従って、仮にノルマン人が間違った英語を話す傾向があったとしても英語を話す人たちがそれを真似するわけがない。イングランド人がノルマン人に会う機会があったとしても、だ。

時代は11世紀から15世紀。当時のロンドンにもアテネフランセのようなフランス語の学校があったかもしれないが、一般の庶民がそこに通う事例は少なかっただろう。テレビもラジオも映画もなかった時代なので大半のイングランド人がノルマン人に会って古フランス語というかアングロ・ノルマン語を実際に聞く機会は限られていたはずだ。とすると、フランス語が英語の文法に影響を与えたとしても、その影響力には限界がありそうだ。

フランス語は普通の民衆から距離を置いて生活していた支配者が話していたエリートの言語である。これに対して、バイキングはイングランドの地に定着して生活し、英語を話す女性と結婚することも頻繁にあった。とすると彼らの子どもたちが実際に耳にしていたのは間違った英語と正しい英語である。これが英語に影響を与えた。

スカンジナビアのバイキングが現地のイングランド女性と結婚する事例は非常に多かったと思うが、逆の事例も多かったはず。つまりブリテン島での定住を決意したバイキングが故郷から親類を呼び寄せ、その親類の中には少女もいて、彼女がイングランドで適齢期を迎えてイングランド人男性と結婚する、という事例も多かったと考えるのが自然だ。

中国はその歴史のかなりの期間において外国人に支配されていた。(…中略…)だが支配者の言語は中国語に影響を与えなかった。外国人は屋敷の中で中国を支配し、通訳を介して屋敷の外部と連絡をとっていた。大雑把に言うと、普通の中国人が支配者たる外国人に会うことは滅多になかった。そういう機会があったとしても稀に出会う兵士とのやり取りぐらいだ。

これは非常に重大な指摘だと思う。外部の侵略者が定住して現地の住民と密な交流(婚姻や商取引など)をする事例(イングランド)。外部の侵略者が定住しても現地の住民とあまり交流しない事例(中国)。まあ、中国の歴史に関してはもう少し深い考察が必要かもしれないが。

バイキングの影響力の強さは、英語の変化がイングランド南部ではなく北部と東部で始まったことで証明できる

第1に、多くの地域でバイキングが集中的に居住していたことだ。デーンロー (Danelaw, デーン人が多く住んでいたイングランド東部地方) には大半の住民の祖先がデーン人であるという地域もあった。このことが意味するのは、スカンジナビア風味の英語を話していたのはごく一部のデーン人やノルウェー人ではなかったということだ。 "Mommie, hwy spæketh he like thæt?" ("Mom, why speak he like that?" or "Mom, why does he speak like that?")

バイキングはイングランド北部とか東部の海岸沿いの村に定住することが多かったはずだ。大挙してやって来たバイキングだけから成る村もあっただろう。そのような村の中では古ノルド語による会話が一般的だったろう。だがバイキングだらけの村に住んでいても村外のイングランド人たちと何らかの商取引をしなければ生活できるわけがない。とすると嫌でもイングランドの言葉を覚える必要がある。

さらに言えば、バイキングたちはバラバラに居住していたわけではなかった点も重要だ。仮に彼らの家々がイングランド全域に孤立ぎみに点在していたらどうなっただろう? そうなったら少数派のバイキングが多数派のイングランド人に呑み込まれ、イングランドにおけるバイキングの「血の濃さ」が0%近くにまで下がる事態が起きたかもしれない。そのような民族同化の歴史もありえたと思う。だが実際には彼らはバイキングだらけの村に住んだ。こうしてバイキングの人口密度が高い地域が北部と東部を中心に形成された。古ノルド語が英語の文法を変え、バイキング自身がスカンジナビア風味の英語を話し始める歴史がここから始まった。

第2に、文書で明らかなのだが、英語の文法がまっさきに単純化の道に向かったのはイングランドの北部である。スカンジナビアからやって来た人々の人口密度が高い地域だ。

 West SaxonNorthumbrianNorthern Middle Engish
Idēme-o-e
youdēmest-es/-as-es
he/shedēmeþ-es/-as-es
wedēmeþ-as-e
y'alldēmeþ-as-e
theydēmeþ-as-e

上記テーブルは動詞 deem が主格に合わせて格変化する様子。現代英語では deem は deem - deems という貧弱かつ理解しやすい格変化のみが残っているが、昔の英語ではこのように変化していたわけだ。見てもらえればわかるが、イングランド南部の方言 West Saxon とイングランド北東部の方言 Northumbrian の違いが興味深い。古英語の形をよく残している南部。古英語の面影が失われつつある北部と東部。

比較のため同時代のイングランド南部の中英語がどうだったか参照されたい。依然として古英語の形をよく残していることがわかる。南部はバイキングが定住しなかった地域である。

 Old EnglishSouthern Middle English
Idēme-e
youdēmest-st
he/shedēmeþ
wedēmeþ-eþ
y'alldēmeþ-eþ
theydēmeþ-eþ

つまり動詞の接尾辞の単純化あるいは喪失はイングランド全域で同時に起きたわけではなかったのだ。このような現象は特定の地域で先行的に起きた。外国人の大群によって英語がズタズタにされた地域だ。

つい最近の19世紀後半においてもイングランド南部の海岸沿いのドーセット郡 (Dorset) では事物を人称 (personal gender) と非人称 (impersonal gender) に分けて区別していた。personal はヒトを含む生きとし生けるものすべて。そしてある種の道具も含む。 impersonal は上記以外すべて。 tree は personal なので "He's a-cut down." 。しかし water は impersonal なので "It's a-dried up." 。指示代名詞も2つの性 (gender) に分かれていた。water なら "this water" だが tree は "thease tree" という具合に。

V2の法則の呪縛から最初に解き放たれたのもやはり北部である。対照的に南部では長く続いた。

(…中略…)そして dagum の接尾辞 -um が明らかにしてくれる事実がある。dagum は与格の複数形である。ノーサンブリア方言 (Northumbrian) では他の格 (case) が姿を消しつつあるのに、このどっしりとして動かない接尾辞は踏ん張り続けた。他の地方の方言と共に古英語の時代が終焉を迎えようとしているときでさえ -um 接尾辞は自然磨耗に耐え、その姿を -en のような形に変えた。ノーサンブリア方言では常に同じ場所にとどまって -um として生き続けた。まるで夜空に輝く星のように。

これには理由がある。下記のテーブルを見ていただければ理解できるだろう。古英語の stān (現代英語の stone) の格変化、そして古ノルド語の armr (現代英語の arm) の格変化。

 Old English, singularOld English, pluralOld Norse, singularOld Norse, plural
nominative (主格)stānstānasarmrarmar
genitive (属格)stānesstānaarmsarma
dative (与格)stānestānumarmiarmum
accusative (対格)stānstānasarmarma

注目していただきたい点がある。古ノルド語の語尾は概して古英語のそれとは異なる。英語を習うスカンジナビア人は名詞を使うたびに小さな障壁に突き当たっただろう。だが与格の複数形は彼らが唯一安息できる箇所だった。 -um 接尾辞は古英語と古ノルド語が偶然にも同じ形を取る数少ない事例のひとつだったからだ。このことから予想できるのは、スカンジナビアの人々が必死になって -um 接尾辞にしがみついたであろうということだ。対照的にこれ以外の接尾辞は名詞から消えうせた。 -um 接尾辞は彼らにとって古ノルド語で既に馴染み深い形だったのだ。

現代英語の名詞は主格になろうが目的格になろうが変化しない。だが昔の英語の名詞は、現代英語の代名詞が I - me - my - mine と変化するように、主格、対格、与格、属格…によって接尾辞が変化した。しかも名詞によって変化の仕方が違った。ちょうど現代英語の不規則動詞の活用が複雑きわまるのと同じように。名詞の格変化が完全に消滅したのはバイキングの貢献によるもの、というのがおそらくほとんどの言語学者の総意らしい。

アイスランド語が1,000年間変わらなかった理由、英語が変化し続けてユーザー・フレンドリーになった理由

ゲルマン系諸語の中にあって、隔絶された島で話されるアイスランド語は学習者が地球上で稀であり、ほとんど単純化しなかったメンバーのひとつである。今日でさえその文法は古ノルド語の時代からほとんど変化しておらず、アイスランド人はおよそ1,000年前に古ノルド語で書かれた英雄神話と詩歌を読むことができる。アイスランド語には3個の性がある。古ノルド語の格変化に伴う語尾の変化の大半はレイキャビクで暮らす人たちが毎日使っている言葉の中に今でも残っている。加えて、 "you mistake you" という風変わりな表現、 hithering and thithering, verb-second rule, have-完了とbe-完了、 そしてゲルマン祖語に見られたその他の特徴のほとんども健在である。

英語の運命をその親戚たるアイスランド語と分け隔てたものは、略奪者バイキングの侵入を経験したことである。彼らは故郷に戻らずブリテン島にとどまって古ノルド語の代わりにイングランド人の言葉を話す道を選んだ。(…中略…)古代北欧の英雄伝を今でも読めるアイスランドの人々は大陸から遠く離れ、外部の者に侵略されない島に住んでいる。今やゲルマン語族の中で最もユーザー・フレンドリーになった言語を話す人々はアイスランド島に比べて大陸に近い島に住んでいる。その島はその近接性ゆえ繰り返し外部から侵略されてきた。

アイスランド語と英語と中国語を比較してみよう。やや単純すぎるかもしれないけど。

  • アイスランド語 - アイスランドはあまり外部から侵略されなかったのでアイスランド語は1,000年間あまり変化せず複雑な文法を残している。
  • 英語 - イングランドは頻繁にバイキングの侵入を受けた。バイキングは現地の人たちと深く交流したので英語の簡素化に寄与した。
  • 中国語 - 中国は頻繁に他民族の侵入を受けた。他民族は現地の人たちとあまり交流しなかったので中国語の変化に寄与しなかった。

そのほか

私の知り合いの1人は英語ネイティブではないのだが英語は上手だ。私が年齢を訊いたとき彼女はこう答えたことがある。 "I turn twenty-five." うーん、完璧とは言い難いね。正しくは "I'm turning twenty-five." だ。時間を示す語を文頭に添えたときに限り動詞の原形が許される。 "Tomorrow I turn twenty-five." という具合に。

そういえば未来表現に関しても英語は少し独特らしいね。

バゲットのレシピを英語で書いた

No-Knead Bread のレシピを英語で書いた。これをLang-8で公開すれば誰かが添削してくれるのかな?

baguettes
Courtesy of Free Images - Pixabay

Twinbirdのコンベクション・オーブン TS-4119 を買って以来バゲットばかり焼いている。極端に言えばバゲットは水と塩と小麦粉さえあれば焼ける。(イーストは空気中に漂っているものが自然にパン生地に付着して増える)。それ以外の材料は一切いらない。

手順も他のパンに比べると簡潔だ。

  1. 粉を捏ねる(こねる)
  2. 1次発酵
  3. 分割
  4. 寝かせる
  5. 成形
  6. 2次発酵
  7. 焼く

これだけだ。

これだけではあるが、もっと詳細にバゲットのレシピを書いてみた。しかも英語で。これは実際にふだん自分が実行しているレシピのひとつであり、一般に「捏ねずに作るバゲット」として知られている。数年前だったか、New York Times が火付け役になって大流行した No-Knead Bread を自分なりに少し改良したものだ。

Baguette recipe

Ingredients:

  • All purpose flour (200 g), water (134 g), instant dry yeast (2/3 teaspoon, 2 g), and salt (1/3 teaspoon, 2 g).

Directions:

  1. Dump flour into a bowl. Tip salt near one side of the bowl. Just don't mix at this time.
  2. Pour lukewarm water - not boiling one - into a cup and add instant dry yeast. Stir for a minute or so.
  3. Transfer that water into a corner of the bowl - far side from where salt has been drizzled. In a couple of minutes, the dough mass would be bubbling a bit. And then mix and stir with a silicone spatula or paddle until your dough has a uniform texture or gets completely wet.
  4. Now your dough should look a lot shaggy, but it doesn't matter. You don't need to knead. Cover the bowl with plastic wrap or like that. Let sleep in the fridge and ferment all night.
  5. Next morning, your dough should puff up and almost double in size. Try "poke test" to make sure it's ready to go. The dough should give into the pressure and slowly creep back up when you poke your finger on the surface.
  6. Dust the countertop with flour. Dump out the dough onto it. Scrape the dough all out with a spatula since it might be a bit sticky.
  7. Cut dough into two pieces with a scraper.
  8. Grab dough. Stretch and fold over all ends towards the middle. Shape it to make look like a ball. Pinch all sides shut and seal them. Turn over and make sure that its upside surface gets smooth, taut and tight. At this stage, don't knead, otherwise you'll pop bubbles inside. Finally place the dough with its seam side down.
  9. Spray dough with water, cover with plastic wrap and allow it to bench rest for 10-30 minutes at room temperature.
  10. Stretch dough so gently with finger tips that bubbles aren't punched out. Fold over and make a rectangular shape. Tuck both long and short ends. Pinch all sides tightly and seal them completely. In the end, your dough should look a bit like baguette!
  11. Put dough on parchment paper. Keep wet. Let rise 1-2 hours in a bit warm place.
  12. Pre-heat the oven at temperature of 250℃ or 482F while dough is rising.
  13. Turn on the gas stove to medium heat. Place on the burner a frying pan - remove the handle in advance - or skillet made of cast iron. And burn the pan, with nothing inside, for a couple of minutes.
  14. Once the dough almost doubles its size, score it with a knife. Make 2-3 shallow slashes at an angle on the surface; these cuts are vents to help release steam and gas in the loaf. Spray water all over the dough.
  15. Plop the dough with parchment paper onto the burnt pan on the stove. Something like a well-floured pizza peel might be helpful. Cast some water into the pan to create a lot of fiery steam and cover with a lid pretty quickly; many home bakers insist steam makes large bubbles or holes in crumb.
  16. Slip on oven mitts to grab the sizzling hot frying pan, which has no handle. Load it into the oven. Keep the lid shut. Turn down to 230℃ or 446F. Bake and wait.
  17. Ten minutes into baking, remove the lid from the pan and sprinkle water over the loaf.
  18. Wait for another 10 miniutes or until the loaf's crust turns crisp and golden brown. Time and temperature may vary a lot from oven to oven.
  19. Remove the pan from the oven. After the loaf cools down a bit, cut into it, take a photo and share with friends.

バゲットのレシピ

材料:

  • 中力粉 (200 g), 水 (134 g), インスタント・ドライ・イースト (小匙2/3, 2 g), and salt (小匙1/3, 2 g).

手順:

  1. 小麦粉をボールに入れる。ボールの端のほうに塩を入れる。まだかき混ぜてはいけない。
  2. ぬるま湯 - 沸騰したお湯ではない - を容器に入れ、インスタント・ドライ・イーストを加える。1分ほどかき混ぜる。
  3. このお湯を先ほどのボールの片隅(塩を入れた場所から離れた側)に注ぐ。数分でパン生地から泡が少し出てくる。そして生地が均一になるか水分を完全に吸い込むまでシリコン製の「へら」でかき混ぜる。
  4. これで生地がかなり毛羽立っているはずだが問題ない。捏ねる必要はない。ボールをラップなどで覆う。冷蔵庫で一晩寝かせ、発酵させる。
  5. 翌朝になると生地が膨らんでほぼ2倍の大きさになっているはずである。準備完了かどうか「フィンガー・テスト」をやってみよう。指を表面に差し込むと生地がへこむはずだ。
  6. カウンターに小麦粉をふるう。そこに生地を落とす。若干べとつくかもしれないので「へら」ですべてこすり取る。
  7. スクレイパー(スケッパー, scraper)を使って生地を2個に切る。
  8. パン生地をつかみ、伸ばし、全方向から端を真ん中に向かって折り畳み、ボールの形にする。すべての面をつまんで閉じ、密封する。生地をひっくり返し、上の面がすべすべでピーンときつく張り詰めているようにする。ここで捏ねてはいけない。さもないと中の気泡をつぶしてしまう。継ぎ目がある面を下にして生地を置く。
  9. 水をスプレーし、ラップフィルムで覆い、室温で10分から30分間寝かせる。
  10. 気泡が押し潰されないように指先で生地を優しく伸ばす。折り畳んで長方形の形にする。長い辺と短い辺のいずれもたくし込む。すべての辺をきつくつまみ、完全に閉じる。最終的にはこれはバゲットのように見えるはず!
  11. 生地をクッキングシートの上に乗せる。要保湿。少し暖かい場所で1時間から2時間かけて発酵させる。
  12. 生地が発酵しているあいだにオーブンを摂氏250度(華氏482度)で予熱。
  13. ガス・コンロを中火にする。フライパン - あらかじめ取っ手を外しておくこと - をコンロに乗せる。フライパンの代わりに鋳物のスキレットでもよい。このフライパンまたはスキレットを数分間空焼き(からやき)する。
  14. 生地の大きさがおおむね2倍になったらナイフを使ってクープを入れる。表面に2-3本の浅い傷を斜めに入れる。この切り込みはパン内部の蒸気とガスを逃がすのに役立つのだ。生地全体に水をスプレー。
  15. 生地をクッキングシートごと持ち上げ、ガスレンジで焼かれているフライパンにどさっと入れる。小麦粉をまぶしたピザ・ピールが役に立つかもしれない。フライパンの中に水を少し入れて大量の焼けつくような蒸気を作り、すばやく蓋を閉じる。ホーム・ベーカリーをやる人たちの多くが、蒸気はパンの内部に大きな気泡または穴を作るのだ、と言う。
  16. オーブン用のミトンを着用し、熱く焼けているフライパン - 既に取っ手は外してある - を握る。これをオーブンに入れる。蓋はしたまま。温度を摂氏230度または華氏446度に下げる。焼成の開始だ。そして待つ。
  17. 焼成開始から10分後フライパンの蓋を外し、生地全体に水をスプレー。
  18. さらに10分待つ。またはパンの外皮がぱりっとして黄金色になるまで待つ。時間と温度はオーブンによって大きく異なる。
  19. オーブンからフライパンを取り出す。少し冷めたらナイフでスライスし、写真を撮り、友人たちとシェアしよう。

バゲットを焼くときに使う英語

以下はバゲットを焼くレシピでよく使われる英語の表現。日本語で言う「フィンガー・テスト」が英語だと "poke test" に、「バット」が "pan" に、「天板」が "baking sheet" になるなど、注意が必要なものが多い。

  • home baker - 自宅でパンを焼く人
  • all purpose flour - アメリカで最もよく売れている万能の小麦粉。日本で言う中力粉とほぼ同じ
  • tablespoon - 15 ml の匙、大匙
  • teaspoon - 5 ml の匙、小匙
  • lukewarm water - ぬるま湯
  • stir - かき回す、かき混ぜる
  • drizzle - 霧雨のように降らせる
  • combine - 混ぜる、まとめる
  • spatula, paddle - へら
  • scraper - スクレイパー。パン作りをやる人たちの間ではなぜか「スケッパー」と呼ばれる。耳で聴いた感じでは確かにスケッパーのほうが英語の原音に近い
  • knead - 捏ねる。"You don't need to knead." という韻を踏んだ表現が知られている。
  • dough - パンなどの生地。捏ねることができるぐらい水分が少ないのが dough, 捏ねるのが難しいぐらい水分が多いのが batter. 後者はパンよりもケーキなどお菓子の生地で使われる表現らしい
  • sticky - べたつく
  • turn around, turn over, flip, invert - ひっくり返す
  • stretch and fold - 伸ばして畳む
  • heel of one's hand - 手のひらの手首付近
  • fold over - 折り重ねる、折り畳む
  • windowpane test - 捏ねた生地を薄く伸ばし、向こう側が透けて見えるかどうか調べること
  • tuck the dough ends under - 生地の端を下にたくし込む
  • taut - ピーンと張った
  • seam - 継ぎ目
  • with its seam side down - 継ぎ目のあるほうを下にする
  • seal - 密封する
  • flour - 粉、小麦粉。粉をまぶす
  • dust - 粉をまぶす
  • sprinkle - 液体や粉をまき散らす
  • ferment, rise, proof, prove - 発酵する
  • puff, puff up - 膨れる、蒸気などを出して膨れる
  • double in size, double one's size - 2倍の大きさになる
  • poke test - フィンガーテスト。英語では "finger test" はたぶん通じないと思う
  • creep up - 少しずつ持ち上がる
  • give - へこむ、たわむ。自動詞
  • scrape out - 掻き出す
  • scrape down the sides of the bowl - ボールの内側を掻き取る
  • dump out on floured surface - 小麦粉をまぶしたところにどすんと置く
  • bench, bench rest, rest, sit - 寝かせる、ベンチタイム。"bench time" はおそらく和製英語であり、英語で書かれたレシピで一度も見たことがないけど、たぶん英語圏の人たちには通じると思う
  • taper - 先に行くほど細くなるようにする
  • finger tip - 指先
  • couche - クーシュ(2次発酵用のキャンバス布)。たぶんフランス語
  • plastic wrap, plastic film - ラップフィルム。"wrap film" という英語には一度もお目にかかったことがない
  • parchment paper, baking paper - クッキングシート。"cooking sheet" はおそらく通じない
  • baking sheet, pan sheet - 天板。なぜ英語圏の人たちはこれを "sheet" と呼ぶのかと言うと、おそらく 1-2 mm という薄いスチール製だからだと思う
  • pizza stone, baking stone - ピザストーン
  • loaf pan, bread pan - パン型。英語では、蓋のない浅い容器を一般的に "pan" と呼ぶ。だから日本語で言う料理用の「バット」も pan である
  • preheat - 予熱する
  • set the oven to 230C. - オーブンの温度を摂氏230度に設定する
  • turn on the oven - オーブンを熱する
  • cast iron - 鋳鉄、鋳物(ちゅうてつ、いもの)
  • lava rock - 火山岩
  • lame /lɑ:m/ クープ用ナイフ。英語のレシピだと単に "knife" あるいは "paring knife" (果物ナイフ) と呼ぶことが多く、"lame" という専門用語(?)はほとんど使われない印象
  • slash, score - クープ(焼く前)、ナイフで生地にクープを入れる。日本語の「クープ」はフランス語から来た外来語かもしれない
  • grignes, gringe, ear, lip - クープ(焼いた後)。前2者はたぶんフランス語
  • at an angle - 斜めに
  • the blade should be held at a slight angle to the dough surface - 刃は生地表面に対してやや斜めの角度になっていなければいけない
  • stove, gas stove - ガスレンジ、ガスコンロ。もちろん "stove" には日本語で言う「ストーブ」の意味もある
  • fiery /fɑiri:/ - 焼けつくような、ひどく熱い
  • boiling water - 沸騰したお湯
  • sizzle - じゅうじゅうと音を立てて焼く
  • sizzling - 熱でじゅうじゅう音を立てる
  • turn the oven to 225C - オーブンの温度を摂氏225度に下げる
  • pizza peel - ピザピール
  • pan - 通常蓋がない鍋、皿状の器。日本語で言う「バット」は英語の "pan" に含まれる
  • pot - 通常蓋がある深鍋、通常蓋がある円筒形または縦長の器
  • load the dough into the oven - 生地をオーブンに入れる
  • time varies from oven to oven - 所要時間はオーブンによって異なる
  • remove - 取り出す
  • mitt, mitten - ミトン。前者は後者の省略形。使用頻度が圧倒的に高い語は "mitt" のほう。用途をはっきりさせるには "oven mitts" と言えばいい
  • loaf - 既に焼かれているが、まだスライスしていないパン
  • wire rack, wired rack - 焼き網、クーラー。焼きあがったパンを置いて冷やす網。これを言い表すのに "cooler" が通じるかどうかは不明
  • cut into the loaf - ナイフをパンに差し込む
  • cutting board, chopping board - まな板

バゲットは材料が単純だが、一般的にパンはもっと多様の材料が必要であり、手順がもっと複雑。以下はバゲットなどハード系のパンでは不要だがそれ以外のパンやお菓子のレシピでよく使われる英語の表現。

  • yolk - 卵黄
  • egg white - 卵白
  • strainer - 粉をふるう網
  • line the baking sheet with parchment - 天板をクッキングシートで敷き詰める
  • unsalted butter - 無塩バター
  • granulated sugar - グラニュー糖
  • batter - ケーキなどの生地。捏ねることができるぐらい水分が少ないのが dough, 捏ねるのが難しいぐらい水分が多いのが batter. 前者はパン生地で使われる表現
  • cut butter into the batter - バターを切って生地に混ぜ込む
  • microwave - レンジでチンする、電子レンジ。"electronic range" と言ってもたぶん通じない
  • wrap it in foil - アルミホイルで包む
  • halfway through baking, rotate the pan front to back - 焼成が半分まで終わったら鍋の前後を入れ替える
  • grease, oil - 油を塗る

英語の副詞 just の意味を完全に説明する

英語の just の元々の意味は「直立」。ここから「正当性」という意味が派生し、やがて「少しだけ」という副次的な意味が生まれた。この語にまつわる豊かで深い意味を例文つきですべて説明する。

たけのこの里

英語の副詞 "just". たった1音節の単純な言葉なのにその意味は多様で深い。既に「ジャスト」は日本語化しているのに英語の "just" をどう和訳したらよいか悩むことがある。小説を読んでいるときに「なぜ、この文脈で、この文で、 "just" が使われているのだろう?」と理解に苦しむことが多い。

しかし数日前のことだが、 "just" の語源が古フランス語とラテン語であり、元々の意味が "upright" (直立) であることを偶然知ってひらめいた。この語の元々の意味は「直立」。そうか、わかった。"just" にはいろんな意味、いろんな訳語が与えられているけど、すべては「直立」から導き出せるのだ。

3つの例文を下に示す。さまざまな意味と訳語が与えられる "just"。ここから "just" の共通した概念というか統一した原義を見出すのは非常に困難に思える。

  1. I just ate breakfast. (朝食をさっき済ませたばかりだ)
  2. I just can't! (無理! どんなに頑張っても無理!)
  3. Just in time. (ぎりぎり間に合った)

#1は過去のことを言い表す表現。"just" がないといつの過去のことかわからないが、 "just" があると「つい最近」の過去である感覚が生まれる。ではなぜ大昔の過去ではなく「つい最近の過去」という意味になるのだろう?

そして#2は別に過去のことでもなんでもない。ここでの "just" は "can't" を強調しているのだろうか? なぜ "just" を加えると「どんなに頑張っても…」という感覚が出てくるのか?

最後の#3. ここで使われる "just" に関しては、なぜ「ぎりぎり」の意味を獲得するようになったのか皆目見当が付かない人が多いと思う。

これら3つの "just" の概念がバラバラに見えるのは日本語訳のせいもある。しかし実際にはこれらすべてに共通する概念というか感覚があるのだ。それは何かと言うと「直立」という原義であり、そこから派生した「正当性」と「少しだけ」という感覚である。この記事を読めば上記3つの文の "just" をすべて理解いただけると思う。

Online Etymology Dictionary から "just" の語源学的説明を引用。

just (副詞)
14世紀末期に生まれた語。意味は「道徳的にまっすぐ (morally upright), 神の目から見て正しい (righteous in the eyes of God); 正当化しうる (justifiable); 公平 (equitable), 偏らない (impartial), 公平 (fair); 決まりごとに従う (conforming to rules)」である。また "just" には「正確さによって示される、または特徴づけられる; 正確, 正確な寸法」という意味もある。"just" の語源は "just, righteous, sincere" を意味する古フランス語 "juste" である。もうひとつの語源はラテン語 "iustus" であり、これは英語で言うと "upright, righteous, equitable; in accordance with law, lawful; true, proper; perfect, complete" という意味である。

Online Etymology Dictionary

just の意味で悩んだらタケノコを思い浮かべよう

"just" の本来の意味であるとされる「直立」。ここから「地面から少しだけ顔を突き出している筍(タケノコ)」の絵が思い浮かぶ。この筍は地面に対して垂直に、そして天の方向を目指して、ほんの少しだけ突き出ている。「垂直に立つ」姿勢から「正当性」の意味が出てくる。ここまでの理屈は誰でも容易に導き出せるだろう。そして筍が地面から「ほんの少しだけ」突き出ていることが重要だ。ここから "just" には「ほんの少しだけ」という意味が育まれたのだろうと自分は考えている。

語源学的に言うと英語の "just" はラテン語の "iustus" から来ており、それが古フランス語 "juste" を経由してブリテン島の英語に入った。だがローマ人もフランス人も "just" に「少しだけ」という意味が派生しようとは想像しなかっただろう。この「多くではなくほんの少しだけ」という感覚はおそらくイギリス人のオリジナルである。

以下に、さまざまな使われ方をする "just" の例文を主として英辞郎から抜き出し、解釈をこころみた。牽強付会かもしれないが、この語のすべての使い方は「正当性」と「ほんの少しだけ」だけで解釈できる。このまとめが "just" の奥深く多様な意味を100%網羅していると言うつもりはない。だが99%はこの説明で行けると思う。迷ったら地面からピョコンと少しだけ顔を出しているタケノコの姿を思い浮かべよう。

bamboo sprout
Courtesy of Free Images - Pixabay

just を「正当性」の意味で使っている例文

「実に、まさに、全く」

These are just the facts. (これらは紛れもない事実である)
「正当性」から派生した意味「実に、まさに、全く」で解釈できる例文。
That's just what I want. (それこそ私が求めていたものです)
これも「正当性」で解釈可能。訳語としては「実に、まさに、全く」。
It's just the same with our family. (わが家とてまったく同じことだ)
"just" は "the same" を修飾。
"just" に続く言葉が「類似」に関するもの (the same, like, etc.)であればその後続の語を「正当性→強調」の意味で修飾することが多い。"just like ..." (...と全く同様に) という表現もある。

just を「少しだけ」の意味で使っている例文

「単に、ちょっと、ただ~だけ、たった~だけ」

I wish I could see it just once. (一度でいいから見てみたいものです)
10回20回ではなく1回だけでいいという感覚。
"just" に続く言葉が「数、量または大きさ」に関するものであればその後続の語を「少しだけ」の意味で修飾することが多い。
It's just ten o'clock. (まだ10時だ)
11時でも12時でもなくそれより少ない10時であることを示唆。
このブログを読む人なら当然ご存じだろうが、「ちょうど10時」を英語で言うなら "It's exactly ten o'clock." であり、"just" は通常使わない。

「ちょうど、~だけ、今しがた」

I just ate lunch. (お昼を食べたばかりです) (俺はただランチを食べただけだよ)
過去の出来事に言及する文。"just" はアメリカ英語の過去時制とイギリス英語の完了表現でよく使われる副詞である。
過去と言っても数十億年前から1秒前まで幅広い。"just" が付加されることで「長時間さかのぼる過去」ではなく「数秒だけ(少しだけ)さかのぼる過去」の出来事であることがわかる。
ただし "I just ate lunch." の意味はアメリカ人なら「今ランチを食べたところです」だが、上述した理由によりイギリス人は「ランチを食べただけです」と解釈するかもしれない。前者の "just" は時間的な「ほんの少しだけ」、後者は空間的な「ほんの少しだけ」。
Just now. (ついさっきのことだよ)
これも「少しだけ過去にさかのぼる」感覚がある。「今」だけど「数秒前の今」。

「何だただの~か、つまらないことに」

Oh, it's just you. (なんだおまえか)
「あなたは始皇帝でもなく私の命の恩人でもなく普通の人だよね」という感覚がある。これも "just" の「多くではなく少しだけ」という意味で解釈できる。

「辛うじて、ようやく」

I only just managed to catch the last bus home. (私は辛うじて最終バスに間に合った)
話者がバス停に到着した時刻とバスが発車した時刻の間が長かったのではなく、非常に短く小さかったことを感じさせる文。

「要するに、一体、どうでもいいけど」

Just how are you going to do that? (だーかーらー、どうやってそんなことするつもりなの?)
別に多くを語らなくていいから「どうやってそんなことするつもりなの?」という1個の疑問に答えてくれればよいのだ、という感覚。

「質問はいいから、黙って、つべこべ言わずに、とにかく」

"Wh-what happened?" "No time to explain. Just run!" (「な、何が起きたの?」「説明している暇はない。とにかく逃げろ」)
「100時間不眠不休で働いてくれ」とか「私に1億円くれ」とか大きなことを求めているのではなく「走る」という小さな行動でよいのだ、という感覚がある文。

「とてもじゃないが」

I just don't seem to hit it off with him. (彼とはとてもじゃないがうまが合いそうにない)
「彼の奴隷として働く」とか「彼に高級料理をおごる」という大きなことをやるのは無理。それどころか「彼と仲良くやる」という小さなことさえ無理という感覚。
I just can't! (とんでもない! 無理よ!)
100%とか30%やれるどころか1%すら無理、と解釈可能。
細かく説明すると、"just" は "can't" を修飾しているのではなく "can" を修飾し、文の途中までは「少しだけ可能」 (just can) という意味になっている。だが後続する "not" が "can" (可能) を否定し、全体として「1%すら無理」という意味になる。そういう構造の文である。

「何もしないのに、自然発生的に、成り行きで」

I didn't mean it. It just happened. (わざとじゃないんだ。なんか知らないけど、そういうことになっちゃったんだよ)
高い確率でそういうことになったのではなく低い確率(少ない確率)でそうなった、という感覚。つまり必然(100%近い確率)ではなく成り行き。
He just happened to sit next to me. (彼はたまたま私の隣に座った)
私の隣りに座る確率は高くなくて低い確率(少ない確率)だったという感覚がある。言い換えると「偶然」(1-2%の確率)。

just が修飾するのは必ず後続の語である

最後にもうひとつだけ。Twitter検索したら下のような文を見つけた。日本語にすると矛盾している内容に見えるけど、英語の語順を正しく知れば矛盾していないことがわかる。

I want to ride a roller-coaster someday but they just seem too scary to me. (いつかジェットコースターに乗りたい。でもちょっと怖いかも)
"just" が修飾しているのは "seem" 。他方 "too" が修飾しているのは "scary" 。つまりこの文は「ジェットコースターに乗るのはすごく (too) 怖いけど、怖いと感じる行為自体は少しだけ (just) です」という構造になっている。日本語にするとわかりにくいが、"just" が他の語を修飾するときは必ず前からであり、"too" が形容詞と副詞を修飾するときも必ず前からであることを押さえておけば文の構造を正確に把握できる。

これは余談になるが、英語の副詞の修飾に関する語順は意外に統一されていない。

  • "just" は必ず後続の語を修飾する。
  • "too" は原則として後続の語を修飾する。文全体を修飾するときは "too" 自体が文の最後に置かれるのが普通だが主語の直後など途中に置かれることも多い。
  • "only" は先行する語を修飾することもあるし後続する語を修飾することもある。何が修飾されているかを把握するには文脈で判断するか、会話の中ならストレスが置かれる場所を聴き取る必要がある。
  • "not" は助動詞に関しては必ず後ろから修飾し、それ以外の品詞に関してはほぼ例外なく前から修飾する。

その他

"You're just beautiful." は「あなたは本当に美しい」とも「お前は顔が美人なだけで他はひどいね!」とも解釈できる。どちらの意味なのか判断するには文脈に頼るしかない。

"just" を強調する語は "only" であり、 "really, very, a lot, much" などは使えない。"only" は通常は "just" を前から修飾する。例文→ You still only just turned 21. (あなたはまだ21歳になったばかり).

日本語では「30分ジャスト」という表現が許されるが、以下のように英語の "just" は必ず前から修飾する。

There were two just cats. ←誤り
There were just two cats. ←"just" は "two" または "two cats" を修飾していると考えるべきなのでこの語順が正しい
Like just you. ←誤り
Just like you. ←"just" は "like" を修飾していると考えるべきなのでこの語順が正しい

"won't" は "will not" の短縮形である、という説明は半分正しく半分誤り

英語の短縮形。たとえば is not が訛って(なまって) isn't になるのは理解できる。they arethey're に変化して結果的に there, their と全く同一の発音になるのもわかる。 would havewould've になるのも不思議ではない。日本語の「愛している」が縮まって「愛してる」に、あるいは「聞いていない」が訛って「聞いちゃいねえ」になるようなものだ。

だが will notwon't という短縮形になる現象は、その発音を考えると、不自然だ。音が単純化して短くなるなら willn't と変化するのが普通だろう。だが willn't という形は存在しない。少なくとも私の知る現代英語にはそんな奇妙な語は存在しない。なぜ will not の短縮形は willn't ではなく won't なのか? この難問を解く非常にわかりやすい語源学的な説明を英語圏の電子掲示板で見かけた。それを一言で説明すると、

willan/wyllan noht/naht → wynnot → wonnot → won't

…という流れだ。(スラッシュは "OR" を意味)。

ただしこれとは別の説明もある。語源学は遠い昔の言語を研究する学問だからいろんな説がある。インド・ヨーロッパ語族の動詞と助動詞は「人称」によって複雑に屈折してきた。その複雑な文法を反映して、

woll not → wonnot → won't

…と推移した、とする説だ。

以下に解説を日本語に翻訳して紹介しておく。

Old Britain map

won't にはちょっと面白くて複雑な歴史があります。 一言で言ってしまえば willnot の短縮形ですが実際にはかなりの回り道を経てこの形になったのです。

古英語 (Old English) において will は動詞 willan/wyllan の形を取りました。意味は現代英語で言う will, wish, want です。古英語でも未来表現で用いられることがありました。古英語の文 "Ic wille gan." の意味は "I want to go." または "I will go." です。どちらの意味になるかは文脈で決まりました。

古英語では否定の表現は以下のように頻繁に短縮された形を取りました。

  • na(w)ðer = nahwæðer = ne + hwæðer
  • neither = not + whether
  • næfre = ne + æfre
  • never = not + ever
  • nabbað = ne + habbað
  • haven’t = have + not
  • We nabbað naðor ne hlaf ne wæter.
  • We have neither bread nor water.

副詞 not は昔は noht であり、もっと昔は naht でした。noht, nahtnawiht (意味は naught, ゼロ、無価値)の関連語であり、本来は in no way (全く…でない)を意味しましたが、ne の強調形として使われるようになりました。次第に naht, noht, ne はいずれもストレスが置かれなくなって他の語と結合しました。この現象を Jespersen's Cycle と呼びます。

これらの事情が合わさって willan の否定の形 wynnot が新たに生まれました。willan の過去形は語の先頭が wold- になります。これは現代英語になると would になります。これらの語の形と関連語の動詞 wol の影響を受けて wynnotwonnot という形を取るようになりました。1500年代後半のことです。

このような経緯を経て現代英語の won't という形が現れたのは1660年代です。これは wonnot の最後の母音が省略された結果です。この種類の短縮形としては won't は初めての事例でした。その後 can't, couldn't, shouldn't などが won't に倣って1700年代までには出揃いました。現代英語では cannot という形が生き残っていますが、それ以外の couldnot, shouldnot などは消滅しました。

その他の短縮形 -'ll-'ve などについて言うと、その歴史は won't と同じぐらい長いんですが、語源学的な説明は won't ほど込み入っていません。しかしここでは詳述を避けます ;)

それと、これは覚えていてほしいのですが、古英語の綴りは現代英語のそれと比べてあまり標準化されていませんでした。同一の語に対して「正しい」とされる綴りはいくつもあったのです。訛りあるいは方言によって「正しい綴り」も変わりました。それゆえに発音と使用法の変化を歴史的に説明することは難しくなることもあります。とはいえ、won't の誕生の歴史的推移は、私が知る限りでは、このようなものであったと言うことができます。

etymology - What is "won't" a contraction of? - English Language & Usage Stack Exchange

これとは別の説明もある。won't の起源は16世紀までは正当な表現であった直説法現在時制1人称の形 "I woll" から来たものであるという。(この形は19世紀まで使われていた)。ここから否定表現 woll not が現れ、 wonnot に変化した。2人称と3人称では wynnot だったが、1人称の wonnot がそれにとって代わり、人称を問わず wonnot になり、最後に2番目の母音が脱落して won't になった、とする説だ。

Do you mean why is it "won't" instead of "willn't"? It comes from the first person present indicative "I woll", which was current even to some extent until the 19th century, but was standard usage in the 16th century. So it is a contraction of "wonnot" which in turn is a contraction of "woll not". The second and third persons were (and of course still are) "will", and originally there was a "wynnot" but "wonnot" won out and replaced it for all persons, at some point in the 16th c.

origin of the negative contraction "won't" for the future tense | WordReference Forums

You're welcome の意味は「感謝しなさい」になることもある

英語の "You're welcome." は通常 "Thanks." (ありがとう)に対する決まりことばとして使われる。「どういたしまして」。だが「私に感謝しなさいよ」という意味になることもある。使い方に注意が必要かもしれない。

Revenge

アメリカABCのテレビドラマ「リベンジ」 (Revenge) を見ていたらビクトリアがエミリーに "You're welcome." と冷たく言い放つ場面があった。字幕には「感謝して」とあった。普通なら「どういたしまして」の意味になる "You're welcome." がなぜ高慢な印象がある「私に感謝しなさいよ」という意味になるのか?

この場面をもう少し詳しく説明すると以下のようになる。

  • このドラマの主人公エミリーには人に話せない秘密がある。
  • ビクトリアは彼女と敵対関係にある。マルゴーもまた別の理由でエミリーと敵対関係にある。
  • エミリーはビクトリアの秘密を知っている。同様にビクトリアはエミリーの秘密を知っている。
  • マルゴーはエミリーの秘密を知らない。
  • エミリーに不信をいだくマルゴーがビクトリアを問い詰める。
  • 2人の会話を2階の階段からのぞきこんで聞いているエミリー。それに気づくビクトリア。
  • エミリーと敵対しているはずのビクトリアはなぜかエミリーの秘密をマルゴーに言わない。
  • マルゴーがあきらめて退去。
  • 2階の階段踊り場にいるエミリーと視線を交わすビクトリア。
  • エミリーは無言。
  • エミリーに向かって無愛想に "You're welcome." (感謝して)と言うビクトリア。

この場面では本来ならエミリーがビクトリアに "Thank you." (私の秘密をマルゴーに暴露しなかったことに感謝します)と言ってもいい。だがわだかまりの気持ちがあるのでお礼の言葉を言い出せない。そこでビクトリアが先手を打って "You're welcome." と言えば「あなたが無言で『ありがとう』とおっしゃったことを私は知っています。どういたしまして」という意味になるわけだ。

かなり嫌味な「どういたしまして」だよね。「感謝して」はよく考え抜かれた日本語字幕だと思う。

以前イギリスのテレビドラマ「シャーロック」 (Sherlock) にもこういうたぐいの婉曲表現というか嫌味な表現があった。それはワトソンが自分にぶつかってきたのに侘びようとせず走り去る男に向かって "Excuse you!" と叫ぶ場面だ。"Excuse me." とか "Excuse us." はよく使う表現だけど "Excuse you." はあまり使わない。"Excuse you!" の場面の字幕は確か「気をつけろ!」だったと思う。

以下まとめ。

  • 相手が "Thanks" を言う前に "You're welcome." と言ってしまうと文脈によっては嫌味な意味にもなるかもしれない。
  • 偶然相手の体が自分にぶつかったのに向こうが謝罪しなかったら "Excuse you!" と怒鳴ればいい。

老いるに従って英語の母音が変化する傾向

スコットランドのアバディーン大学 (University of Aberdeen) の研究者たちが BBC Radio 4 で半世紀近くにわたって放映されているソープ・オペラ "The Archers" の1975年から2015年までのエピソードを分析したところ、人は老いるにつれて容認発音 (Received Pronunciation, Queen's English) からよりフラットな (flatter) 母音を発声することがわかった。母音の訛りは年齢と共に変わるのだ。

女優ジュディー・ベネット (Judy Bennett) が演じる非常におしゃべりなシューラ・アーチャー (Shula Archer) は1975年の同ドラマの中で古典的な容認発音のルールに従って happy を "heppy" と発音していた。しかし2015年現在では彼女も他の出演者もフラットな母音を好み、happy を綴りどおりに "happy" と発音する。この現象は言語学者が言うところの "lowering of the trap vowel" だ。

同様にイギリスの上流階級の多くは年齢を重ねるに従って母音の発音を変える。女王陛下も例外ではない。

このソープ・ドラマに登場するシューラたちは以前はパットやダン (Pat and Dan) を "Pet", "Den" と発音していた。しかし現在の発音はよりフラットな "a" である。

Older people abandon Received Pronunciation in favour of flatter vowels, according to Archers study - Telegraph

David Boreanaz
Courtesy of Wikipedia

引用した中に "lowering of the trap vowel" という表現がある。lowering はおそらく舌の位置を下げることを意味する。また trap vowel というのは trap-bath split に関係した言い回しだと思われる。 trap と bath の母音は本来ならいずれも [æ] だがイギリスなどでは trap の母音がそのままである一方で bath の母音が長母音化して [æ:] のようになる。これを言語学者は trap-bath split と呼んでいる。この現象については「英語の発音―母音の変化について @ 英語雑貨屋」が非常に詳しい。

「よりフラットな母音 (flatter vowel)」というのはなじみがない表現だ。おそらくこれは舌の形が丸まった状態から平坦な状態に変化することを言っているのだと思われる。たとえば pet の母音 [e] を発声するときの舌と pat の母音 [æ] を発声するときの舌の形状を比較するとわかる。pat は pet に比べると舌がやや平らになる。

母音がフラットになると heppy が happy になる。 Pet, Den がそれぞれ Pat, Dan になる。今回の研究結果によれば年をとるにつれて舌の位置が下がって pet → pat 推移が起きるわけだ。

この研究を知って思い出したことがある。アメリカのテレビドラマ "BONES" に登場するブース (Seeley Booth) の喋り方だ。FBI捜査官ブースはジェファソウニアン研究所の技術者たちを "squints" と呼ぶことがある。学者や技術者は真剣に仕事をして何かを思案しているとき斜視になったり目を細めたりする。技術系の人間ではないブースはそのため多少の皮肉を込めて彼らを squints と呼ぶわけだ。いつだったか名前を知らないインターンに「私の名前を知っていますか?」と訊かれて「知ってるさ。Squintyだろ?」と答えたこともある。squints は普通なら [skwints] と発音するけどブースの発音は少し違う。彼は squints を [skwi:nts] と言っているように聴こえる。つまり通常より舌の位置を上げている。もう少し解剖学的に言うと舌の筋肉を緊張させて中央部を上に押し上げている。

またブースはインターンのデイジー (Daisy Wick) のことを Dizzy または Deezy みたいな発音で呼びかけることがある。

squints と squeents の違いは舌の筋肉に力を込めるかどうかの違いだ。Daisy が Dizzy になるのも同じ。年をとれば舌の筋肉も衰えるだろう。そうなると上述した pet → pat 推移が起きやすくなる。若いときはその反対だ。つまり pat が pet になる。BONESでブースを演じる俳優デイビッド・ボーリアナズ (David Boreanaz) はまだ年老いているとは言えない年齢だから舌の筋肉も衰えていないだろう。だから pet → pat 推移とは正反対の発音になる。

英語には少なく見積もって20種類ほど、多く見積もって30種類以上の母音がある。当然地域差が大きい。たとえばオーストラリアとニュージーランドの英語を聴いたことがある人なら peace が "pace" のような発音になることをご存じだと思う。またアメリカ北部では Northern Cities Vowel Shift と言って cot と caught の音が同じになる現象 (cot-caught merger) が起きているのも有名。だが今回紹介したスコットランドの研究チームは母音が地域によって変化していることを検証したのではない。一人の人間が年を経るにしたがって母音を変化させていくことが実証されたわけだ。

個人的な感想を言わせてもらうと、同様のことは英語だけでなくすべての言語で起きていそうな気がする。日本語も例外ではない。誰だって年をとれば舌とその周辺の筋肉は衰えるわけで発音に変化が表れないとは考えにくい。

英語でどう読む? - 世界各地の地名

世界中の英語ポッドキャストを聴きまくっているおかげで英語のリスニングに若干の自信を持っている昨今。だが固有名詞が来ると聴き取るのが困難になる。そこで世界各地の主要な地名を現す英語から特に発音と綴りに注意しなければいけないもの及び Fin - Finnish - Finland のように複雑に変化するものをまとめてリストにした。Oxfordや小学館プログレッシブ英和中辞典などWEBの辞書を参照するだけでなくYouTubeにアップロードされている英語ネイティブの実際の発音 - 検索キーワードの例は "how to pronounce Haiti" - も聴いて参考にした。気が向いたら今後この記事をアップデートするかもしれない。

注意

  • 固有名詞なので人によって読み方が違うのは当然。極端に言えば固有名詞に「正しい読み方」など存在しない。ここに記した発音表記はあくまでも代表的な例である。
  • 発音記号には実体参照を使っていない部分があるので環境によっては文字化けまたは文字が表示されないかもしれない。

ポッドキャストのスクリーンショット

  • Aegean [i:'dʒi:ən, i'dʒi:ən] エーゲ海 - "Ae" は [i] または [i:] 。第2音節にストレス
  • Alaska [ə'læskə] アラスカ - "la" は [lɑ:] ではなく [læ]
  • Albania [æl'beiniə] アルバニア - "ba" は [bæ] ではなく [bei]
  • Alpine ['æl"pɑin] アルプス山脈の - 最初の音節にストレス。pine は [pɑin]
  • Alps [ælps] アルプス山脈
  • Amsterdam ['æmstər"dæm] アムステルダム - 最初の音節に第1ストレス
  • Ankara ['æŋkərə] アンカラ - 最初の音節にストレス
  • Athens ['æθinz] アテネ > Athenian [ə'θi:niən] アテネの, アテネ人
  • Bangkok ['bæŋkɔk, bæŋ'kɔk] バンコク - "kok" が [kək] にならない
  • Belgium ['beldgʒəm] ベルギー
  • Belgrade ['belgreid] ベオグラード - 最初の音節にストレス
  • Berne [bərn, beərn] ベルン
  • Bering Sea ['beriŋ -, 'biəriŋ -] ベーリング海
  • Bhutan [bu:'tɑ:n, bu:'tæn] ブータン - 第2音節にストレス ,> Bhutanese ["bu:tə'ni:z]
  • Bolivia [bə'liviə] ボリビア - 第2音節にストレス
  • Bosnia and Herzegovina ['bɔzniə ənd "heərtsigə'vi:nə, 'bɔzniə ənd "heərtsi'gɔvinə] ボスニア・ヘルツェゴビナ - Bosnia の "s" は [s] ではなく [z]
  • Brasília - ブラジリア - 綴りは "Brazília" ではない
  • Brazil [brə'zil] ブラジル - 2番目の音節にストレス。綴りは "Brasil" ではない
  • Brussels ['brʌslz] ブリュッセル
  • Bucharest ["bju:kə'rest, "bu:kə'rest] ブカレスト - 最後の音節にストレス
  • Burkina Faso [bər"ki:nə 'fɑ:sou] ブルキナファソ - Burkina は2番目の音節にストレス。[i] ではなく [i:]
  • Cairo ['kɑirou, 'kɑiərou] カイロ
  • Canberra ['kænbirə] キャンベラ - 最初の音節にストレス
  • Canton ['kæntɔn] 広東 - "ton" が [tən] にならない > Cantonese ["kæntə'ni:z] 広東語
  • Caribbean ["kæri'bi:ən] カリブ海 - "bean" に第1ストレス
  • Cologne [kə'loun] ケルン - "lo" は [lou] であり、ここにストレスを置く
  • Colombia [kə'lʌmbiə] コロンビア - アメリカ合衆国の Columbia とは綴りが異なる
  • Congolese ["kɔŋgə'li:z] コンゴ人, コンゴ語, コンゴの - 綴りに注意。国名は Congo
  • Copenhagen ["koupin'heign, "koupin'hɑ:gn] コペンハーゲン - "Co" は [kou]
  • Croatia [krou'eiʃiə] クロアチア - [-ætiə] ではなく [-eiʃiə]
  • Czech [tʃek] チェコ, チェコ語, チェコの, チェコ人 - Czech はチェコに関するあらゆる意味を担う
  • Danish ['deiniʃ] デンマーク語, デンマーク人 - "Da" が [dei]
  • Denmark ['denmɑrk] デンマーク - 最初の音節にストレス
  • Dutch [dʌtʃ] オランダ語, オランダ人, オランダの - 国名は Netherlands または Holland
  • Ecuador ['ekwə"dɔr, "ekwə'dɔr] エクアドル - "dor" は [dər] ではなく [dɔr] であり、ストレスを置く
  • El Salvador [el 'sælvə"dɔər] エルサルバドル
  • Ethiopia ["i:θi'oupiə] エチオピア - "e" は [e] ではなく [i:]
  • Finn - フィンランド人 > Finnish - フィンランド語, フィンランドの
  • Gabon [gæ'bɔ:n, gæ'bɔ:ŋ] ガボン - "Ga" は [gə] ではなく [gæ] 。ストレスの位置が最初に来る人もいる
  • Greece - ギリシャ > Greek - ギリシャ語, ギリシャ人, ギリシャの
  • Greenwich ['grinidʒ, 'grenitʃ] グリニッジ - "Green" が [gri:n] にならない
  • Haiti ['heiti] ハイチ - "Hai" は [hɑi] ではなく [hei]
  • Hanoi [hæ'nɔi] ハノイ - 2番目の音節にストレス
  • Havana [hə'vænə] ハバナ - 2番目の音節にストレス
  • Hebrew ['hi:bru:] ヘブライ語 - "Heb" は [heb] ではなく [hi:b]
  • Helsinki ['helsiŋki, hel'siŋki] ヘルシンキ
  • Himalayas ["himə'leiəz] ヒマラヤ山脈 > Himalayan ["himə'leiən]
  • Ho Chi Minh ["hou tʃi: 'min] ホーチミン - Chi は [tʃi] ではなく [tʃi:]
  • Holland ['hɔlənd] オランダ - "Hol" は [houl] ではなく [hɔl] 。Dutch は「オランダ語, オランダ人, オランダの」
  • Istanbul ['istən"bu:l] イスタンブール - 最初の音節に第1ストレス
  • Jamaica [dʒə'meikə] ジャマイカ - "mai" は [mɑi] ではなく [mei]
  • Johannesburg [dʒou'hænisbərg] ヨハネスブルク - 2番目の音節にストレス
  • Kathmandu ["kɑ:tmɑ:n'du:] カトマンズ - 最後の音節に第1ストレス
  • Kuala Lumpur ["kwɑ:lə 'lumpuər] クアラルンプール - "Lum" に第1ストレス
  • Lebanon ['lebənən] レバノン - 最初の音節にストレス > Lebanese ["lebə'ni:z]
  • Lisbon ['lizbən] リスボン - "s" は [s] ではなく [z]
  • Macedonia ["mæsi'douniə] マケドニア - "ce" は [ki] ではなく [si] > Macedonian ["mæsi'douniən] マケドニア語, マケドニア人, マケドニアの
  • Madrid [mə'drid] マドリード - "drid" は [dri:d] ではなく [drid]
  • Macao [mə'kɑu] マカオ - 2番目の音節にストレス
  • Malaysia [mə'leiʒə, mə'leiziə] マレーシア
  • Mandarin ['mændərin] 標準中国語, 北京官話 - 最初の音節にストレス
  • Manila [mə'nilə] マニラ - 2番目の音節にストレス
  • Massachusetts ["mæsə'tʃu:sits] マサチューセッツ - "chu" に第1ストレス
  • Melbourne ['melbərn] メルボルン - 最初の音節にストレス
  • Mongol ['mɔŋgəl] モンゴル語, モンゴル人 > Mongolia [mɔŋ'gouliə] モンゴル - "Mon" は [mənŋ] ではなく [mɔnŋ] > Mongoloid ['mɔŋgə"lɔid] モンゴロイド
  • Montenegro ["mɔnti'ni:grou, "mɔnti'negrou] モンテネグロ > Montenegrin
  • Milan [mi'læn] ミラノ - 2番目の音節にストレス
  • Myanmar ['mjɑ:nmɑr] ミャンマー - "mar" は [mər] ではなく [mɑr]
  • Nepal [ni'pɔ:l] ネパール - "pal" は [pɔ:l]
  • Netherlands ['neðərlənds] オランダ - Dutch は「オランダ語, オランダ人, オランダの」
  • New Delhi [- 'deli:] ニューデリー
  • Okhotsk [ou'kɔtsk] オホーツク海 - "h" は発音せず、 "kho" は [kou] ではなく [kɔ]
  • Philippine ['fili"pi:n] フィリピンの - 最初の音節に第1ストレス > Philippines ['fili"pi:nz] フィリピン
  • Polish ['pouliʃ] ポーランド人, ポーランド語 - 同じ綴りで "磨く" を意味する polish ['pɔliʃ] と発音が違う
  • Prague [prɑ:g] プラハ - 母音は [ei] ではなく [ɑ:]
  • Qatar ['kɑ:tɑ:r] カタール - 最初の音節にストレス
  • Rio de Janeiro ['ri:ou di dʒə'niərou, 'ri:ou di dʒə'neərou] リオ・デ・ジャネイロ
  • San Diego ["sæn di'eigou] サンディエゴ - Diego の2番目の母音は [e] ではなく [ei]
  • Scandinavia ["skændi'neiviə] スカンジナビア - "na" は [næ] ではなく [nei]
  • Shenzhen [ʃen'dʒen] 深圳 (深土川、シンセン)
  • Slovakia [slou'vækiə, slou'vɑ:kiə] スロバキア - 2番目の母音は [ei] ではなく [æ] または [ɑ:] > Slovakian [slou'vækiən, slou'vɑ:kiən] スロバキア語, スロバキア人 - 2番目の母音は [ei] ではなく [æ] または [ɑ:]
  • Slovene [slou'vi:n] スロベニア語, スロベニア人, スロベニアの
  • Slovenia [slou'vi:niə] スロベニア - 2番目の母音は [e] ではなく [i:] > Slovenian [slou'vi:niən] スロベニア語, スロベニア人, スロベニアの
  • Somalia [sou'mɑ:liə] ソマリア
  • Stockholm ['stɔkhoum, 'stɔkhoulm] ストックホルム - 最初の音節にストレス
  • Swiss - スイス人, スイスの - 国名は Switzerland
  • Taipei [tɑi'pei] 台北 - 2番目の音節にストレス
  • Taiwan [tɑi'wɑ:n] 台湾 - 2番目の音節にストレス
  • Tanzania ["tænzə'ni:ə, "tænzə'niə] タンザニア - "ni" に第1ストレス
  • Tel Aviv ["tel ə'vi:v] テルアビブ - "-viv" の母音は [i] ではなく [i:] であり、ここに第1ストレスを置く
  • Thai [tɑi] タイ語, タイ人, タイの
  • Tibet [ti'bet] チベット - 2番目の音節にストレス > Tibetan [ti'betən] > Tibetan [ti'betən]
  • Ukraine [ju:'krein] ウクライナ
  • Ukrainian [ju:'kreiniən] ウクライナ語, ウクライナの
  • Vienna [vi'enə] ウィーン - 第2音節にストレス
  • Warsaw ['wɔərsɔ:] ワルシャワ
  • Yangon [jæŋ'gɔn, jɑ:ŋ'gɔn] ヤンゴン - 2番目の音節にストレス
  • Zimbabwe [zim'bɑ:bwi] ジンバブエ
  • Zurich ['zuərik] チューリッヒ

定冠詞の the が徐々に使われなくなる傾向

"Language Log ≫ The case of the disappearing determiners" という昨日(2016/01/03)のブログを読んでいたら、英語の定冠詞 the が年々使われなくなっているという驚くべき事実を知った。これを書いたのはマーク・リバマン氏 (Mark Liberman) というアメリカの言語学者。

Abecedarium latinum
Courtesy of Wikipedia.

ここ数世紀の傾向として英語で最も使用頻度が高い語が次第に使われなくなりつつある。データによれば、定冠詞 "THE" は明らかに使われなくなっている。100年で50%減少している事例もある。

THE はフォーマルではない書き言葉で数を減らし、話し言葉ではさらに減っている。ある分野では THE の減少はインフォーマルな方向へのより一般的な長期的傾向になっている。だが THE はスピーチでも減少しているらしい。つまり単に書き言葉のスタイルが話し言葉のそれに変化しているわけではないのだ。

Language Log ≫ The case of the disappearing determiners

こうしてマーク・リバマン氏は Google Books や Corpus of Historical American English などを調べあげ、定冠詞 the の出現頻度を以下のように具体的に出している。

American English @ Google Books
1900-1910年 - 5.98%
1990-2000年 - 4.99%
British English @ Google Books
1900-1910年 - 5.86%
1990-2000年 - 5.32%

これらの数字は Google Ngram Viewer というツールで導き出されたものらしい。統計学と数学は不案内なので n-gram なる概念については説明を省略する。

定冠詞 THE の減少

面白いのはアメリカ大統領の一般教書演説での the の出現頻度。以下がその数字。やはり徐々に数を減らしている。

SOTU (State of the Union Address)
1900-1910年 - 9.21%
2005-2015年 - 4.67%

もうひとつ興味深いのは同じ傾向がドイツ語とイタリア語とスペイン語とフランス語にも程度の差こそあれ見出せたこと。ただし英語と同じくゲルマン語族の言語であるドイツ語ではこの傾向が顕著であるものの、ロマンス語族の諸言語(イタリア語とスペイン語とフランス語)ではあまり減少していない。だとするとゲルマン諸語特有の現象だろうか? ただしインド・ヨーロッパ語の定冠詞にはジェンダー (gender) があるのが普通なのでジェンダーが消失した英語との比較には注意が必要。言語史的に考えると、定冠詞の減少はジェンダーの消失と何らかの形で関係しているのかもしれない。

…いや、どうだろう。わからない。全然わからない。

一体何が原因でこういうことが起きているのか? マーク・リバマン氏は以下の仮説を立てているがいずれも納得できる説明ではないことを自身が認めている。

  1. this, that, these, those のような他の限定詞による置き換え? しかしこれらの限定詞の多くもまた使用頻度が落ちている。増えている限定詞もあるが THE の減少を説明できるほど増えているわけではない。
  2. 「of 所有格」が減って「's 所有格」が増えた? 例: "The Y of the X" -> "The X's Y". この現象は実際に起きていることである。しかしこの構文は THE の減少を説明できるほど増えているわけではない。
  3. 代名詞による定冠詞の置き換え?
  4. 抽象名詞に関しては他の構文による置き換えが起きた? 例: "that's the reason" -> "that's why".
  5. 不定冠詞による定冠詞の置き換え?
  6. THE を必要としない所定量の情報を言い表す言い回しが増えた?

Language Log ≫ The case of the disappearing determiners

個人的にいくぶん納得できるのは #3 の「代名詞による定冠詞の置き換え」かな? この仮説を証明するには it, they, them などの出現頻度がどの程度上昇したかデータを出せばいいと思うんだけどね。

英語が奇妙奇天烈な言語になったのはケルトとバイキングが原因

英語は他の印欧語に比べてなぜ異様な姿になってしまったのか? この謎を簡潔に解説した "Why is English so weirdly different from other languages - English is not normal" が面白かったので一部を日本語に翻訳して紹介しつつ自分の感想を添えた。数日前に投稿されたこのエッセイを書いたのは Columbia University で言語学をやっている John McWhorter という人。英語の文法に大きな影響を与えたのはブリテン島の先住民たるケルトとスカンジナビア半島沿岸で漁業と交易業をやっていたバイキングであるという指摘が自分には刺激的だった。なのでそのへんの議論を中心に抽出して引用する。

ケルト神話
ファイル:Cuinbattle.jpg - Wikipedia

英語に近い言語はない。英語圏の人が厳しい訓練を経ることなく話せるようになれる言語は存在しない。互いに簡単に習得できる言語の組み合わせの例はドイツ語とオランダ語だ。あるいはスペイン語とポルトガル語、あるいはタイ語とラオ語がそうだ。英語に一番近いのはフリジア語 (Frisian) と呼ばれる北ヨーロッパの言語だ。フリジア語 tsiis が英語で言うと cheese で Frysk が Frisian であることを知っていれば "Brea, bûter, en griene tsiis is goed Ingelsk en goed Frysk" の意味を理解するのは困難ではない。だがフリジア語は英語よりもドイツ語に近い言語である。

あれ? 英語に最も近い現存する言語は低地ドイツ語だと思ってたけど違うのかな? ちなみにフリジア語というのは日本語Wikipediaの説明によると「オランダのフリースラント州周辺およびドイツの北海沿岸にまたがるフリースラントで用いられる言語」だとか。他方低地ドイツ語は「オランダからベルギー北部、ドイツ北西部、エルベ川よりも東側のドイツ北東部」で用いられる言語らしい。

名詞に性の違い (gender) があるヨーロッパの諸言語は私たちにとって風変わりで厄介だ。たとえばフランス語だと月は女性名詞、船は男性名詞だ。だが実際には風変わりなのは私たち英語話者のほうだ。ヨーロッパの言語は大半が印欧語に属する。その中で名詞に性がないのは英語だけだ。

後述するけど、英語の名詞から性の違いを奪ったのは北欧のバイキングの仕業。ノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語など現存の北欧の諸言語の場合いちおう男性名詞と女性名詞と中性名詞があるけど女性名詞は著しく数を減らしているため英語と同様に彼らの言語には事実上性別がないと言ってよいとか。

風変わりな点はまだある。現在時制の3人称単数に限って動詞に特別な接尾辞が付く地球上の言語は英語だけだ。私自身もその文法に従ってこの文章を書いている - "I talk, you talk, he/she talk-s". なぜ現在時制の3人称単数だけなのか? 普通の言語では現在時制の動詞の末尾には何も付かないもしくは非常に多様な接尾辞が付く。スペイン語だと hablo, hablas, habla というふうに変化する。それからもうひとつ。否定の文や疑問の文に "do" のようなものを添える言語を挙げることができるだろうか? それを挙げるのが難しいということがおわかりいただけるだろうか? (Do you find that difficult?) ウェールズ、アイルランド、あるいは北フランスの人でなければそのような例を挙げることは難しいだろう。

よく「動詞変化など英語の文法は難しい」と不満を言う人たちがいるけど他の印欧語に比べたら英語の動詞や形容詞の変化はとてつもなく簡単。たぶん印欧語の中で最も簡単。それと昔の名詞には現代英語の代名詞と同じように対格とか目的格とか主格とか属格とか与格などがあったけど現在では完全に消滅してるし。あと名詞の複数形も昔は複雑に変化していたけど今は child -> children など一部を除けば語尾に -s という接尾辞を付ける決まりに収束したから規則性は明確で単純だ。「1匹、3竿、100個、3,000本…」みたいな複雑怪奇な文法を使いこなしている日本語話者なら「英語は難しい」なんて言っちゃいかんでしょ。

古英語 (Old English) は同じ英語であると認識するのが突拍子もないことだと思えるぐらい現代英語とは似ても似つかない。他方アイスランド語を話す人たちは祖先に当たる古ノルド語 (Old Norse) で1,000年前に書かれたものを読むことができる。

これは本当にそう。古英語は綴りとかわけがわからない。アイスランド語の人たちが1,000年前に書かれたものを容易に読めるということはアイスランド語はあまり変化していないということか。

私たちの言語をこのような姿にした最初の原因は、アングル人とサクソン人とジュート人とフリジア人が自分たちの言語をイングランドに持ち込んだときに全く異なる言葉を話す人々が既にこの島に住んでいたことだ。彼らの言語はケルト系だった。ケルト語派というのは今日でもドーバー海峡の両岸で使われているウェールズ語とアイルランド語とブルトン語だ。ケルト人は征服されたが生き残った。ゲルマンの侵略者はわずか250,000人だったので古英語を話す人たちの大半はケルト人だった。

英語史を習った人はご存知だと思うけど、一般的にはケルト系言語の英語への影響はほとんどないとされる。ケルトの男は虐殺され、女は暴行され、子は奴隷にされた。ケルト人たちがイングランドを去ってウェールズなどに移動したので英語に残っているケルト系言語の語彙はほとんどなく、英語の文法にほとんど影響を与えなかった、とするのが一般に流布している説だ。でもこのエッセイを書いた John McWhorter さんの考えはそれとは少し違う。後述するように、彼の主張が正しければ、ケルトの人たちの言葉は英語における否定と疑問の文に関わる文法の核となる部分に強い影響を与えたのだ。

ケルト系の人たちは全員イングランドを出て行ったわけではない。ケルト系諸言語の影響を計るとき彼らがどの程度の規模でイングランドにとどまったのか知る必要がある。そのためには言語学だけでなく人類学と遺伝子調査による検証が必要じゃないかな。それと「ゲルマンの侵略者はわずか250,000人」と言うけど、当時のブリテン島の人口規模を考えると250,000人というのはかなりの大人数だと思うけどね。

重要なのはケルトの言葉が英語とは全く違っていたことである。たとえば動詞は文の最初に来る。 "The verb came first" ではなく "Came first the verb" 。それだけではない。ケルトの人々は動詞の "do" を用いて奇妙な構文を編み出した。do を使って疑問の文や否定の文を作り上げた。あるいは文の味わいに変化を付けるためにも do は使われた。曰く "Do you walk? I do not walk. I do walk." ケルト人がこのように英語を新しく翻訳し始めたために今日ではこのような形は馴染み深いものになっている。だがそのような構文は当時の元々の英語話者たちにとっては奇想天外だったはずだ。

動詞または助動詞の do を用いて普通の文を疑問の文に変えたり否定の文を仕立て上げるのは今日の英語話者にとってはごく普通のルーティーン・ワークだけど、この文法が固定するまでには紆余曲折と試行錯誤があった。で、 do をくっつけるという非常に簡潔な方法が多くの人たちの支持を得て生き残ったわけだけど、この方法を編み出したのはケルト人である、というのがこのエッセイを書いた人の主張だ。

ケルト人たちに次いでやって来たのは海を渡ってきたスカンジナビアのバイキングである。彼らは英語と同じゲルマン語派の話者だった。彼らの言語は古ノルド語 (Old Norse) だったがイングランドの人々にそれを強制することはしなかった。やがて彼らはイングランドの女性と結婚し英語を話すようになった。イングランドに来たバイキングは子どもではなく成人である。だから言語を新たに習得することは容易ではない。学校もメディアもなかった時代なので新しい言語を覚えるということは読むよりも聴くことに努力しなければならないということだ。仮に私たち英語話者が書かれたものを読まずにドイツ語を学んだらその結果どんなドイツ語を話すことになるのか想像してみるといい。

話は少しずれるけど、スウェーデン語とか英語とかゲルマン語派つまりバルト海沿岸の言語の発音って輪郭がノルウェーのフィヨルドみたいにゴツゴツとしてる。他方フランス語とかスペイン語などロマンス語派つまり地中海沿岸の言語の発音って起伏が乏しくてイタリア半島の海岸線みたいにのっぺりとしていて平滑な感じ。北欧諸言語が全体的に強弱をはっきりとさせる力強い喋り方なのはやはり気候とかが関係しているんだろうか?

このようなわけでスカンジナビア人たちの話す古英語はひどいものだった。彼らの子どもたちはそれを聞いて育った。月日が流れ、ひどい古英語は本当の古英語になった。そして現在に至っている。英語を単純にしたのはスカンジナビア人たちの功績である。

ちなみにバイキング (viking) って実態は海賊というよりも交易業者だったとか。海に出れば漁業で生計を立て、陸に上がれば農業をやる。そんな人たちだったらしい。暴力的な略奪行為って成功すればいいけど失敗することのほうが多いからコスト・パフォーマンス的には良いビジネスではなかったんだろうね。

かつて古英語には今日の正しいヨーロッパの言語がそうであるようにバカバカしいぐらい性の違い (gender) があった。だがスカンジナビア人はそういうことにはとらわれなかった。そのため今日の私たちは英語から性の違いを失った。この言語の奇妙な点はまだあって、さらに良いことに、バイキングが習得したかつての素晴らしき動詞の活用がわずか1種類だったことだ。かくしてフロントガラスに付着した虫のように3単現の動詞の接尾辞 "-s" だけが英語の文に今でもこびりついている。このようにしてバイキングは強い酒をなめらかな味の酒に変えたのだ。

英語の動詞変化を単純な形にしてしまったバイキングに感謝。あと名詞から gender を消し去ったことにも感謝。

スカンジナビアの人々はケルトの人々の先例に倣って英語を自分たちにふさわしい形に変えた。彼らは英語に数千から数十万の新語を与えた。

バイキングが英語に与えたのは語だけではない。文法にも影響を与えた。好ましいことに、「"Which town do you come from?" というふうに文末に前置詞を置く形は誤りであり、正しくは "From which town do you come?" である」なんて教える人は滅多にいなくなっている。このように文末に前置詞がぶら下がるのは全く普通の形だと私たち英語話者は考えている。ところが実際には私たちは自分がずぶ濡れであることに気づかない魚と同じようなものなのだ。普通の言語は前置詞をこんなふうにぶら下げない。スペイン語話者にとって "El hombre quien yo llegué con" (語順を変えずに英語に直訳すると "The man whom I came with") なんていうのはパンツを裏表逆に履くぐらい自然な表現である。ぶら下がる前置詞もまた古ノルド語の影響だ。この形はデンマーク語にもある。

ほお、英語の前置詞が文の末尾に不恰好にぶら下がる形を容認したのは北欧のバイキングたちだったか。ところで英語で前置詞の使用頻度が高まったのは、SVOとかSVOCという語の順列組み合わせが石造りの家のように強固になって逆に名詞から主格とか対格とか目的格などが消失していったことが背景にあるんだと個人的には思っている。

古ノルド語に続いてやって来たのはフランス語だ。10世紀にノルマンディーを征服した古代スカンジナビア人であり、バイキングの末裔でもあるノルマン人がイングランドを征服した。支配は数世紀にわたって続き、英語は10,000の新語をフランス語とラテン語から得た。16世紀になると高い水準の教育を受けた英語話者が英語の語彙の意味を豊かにした。彼らはラテン語から新たな語をつまみ食いして英語に高尚な意味を与えた。

フランス語とラテン語の流入のおかげで英語は crucified, fundamental, definition, conclusion などの語を得た。これらの語は今日の私たちから見れば普通の英語だ。だが1500年代のイングランドの著述家の多くは "irritatingly pretentious and intrusive" というフランス語またはラテン語の並びを忌々しいぐらい気取っていて押し付けがましい (irritatingly pretentious and intrusive) と感じていた。今日フランスの衒学者がフランス語への英語の流入を鼻であしらうようなものだ。これらの高尚なラテン語を従来の英語で置き換えることを提唱する者さえいた。これは crucified, fundamental, definition, conclusion をそれぞれ crossed, groundwrought, saywhat, endsay と言い換えるようなものだ。

crossed, groundwrought, saywhat, endsay なんてのは悪くない造語だと思う。確かドイツ語話者が似たようなことをやってきたんじゃなかったかな? ドイツ語はよく知らないけど。

だが言語というのは私たちが望むようにはならない。賽は投げられた。英語は数千から数十万の新しい語を獲得し、従来の英語で言い表していたものを新しい語でも言い表すことができるようになった。その成果のひとつは3重語(三重語、さんじゅうご, triplet )である。3重語のおかげで物事をさまざまな度合いで表すことができる。英語の help, フランス語の aid, そしてラテン語の assist - というふうに。英語の kingly は嘲るような感じだが、ラテン語の regal は王座のように背もたれがまっすぐな感じ。そしてフランス語の royal はどこか中世の、尊敬すべきだが間違いをしでかしそうな専制君主の感じ。

それから2重語(二重語、doublet )。例としては従来の英語の begin とフランス語から来た commence 、あるいは want と desire など。特に注目すべきは料理に関する語の使い分けの変容だ。私たちは a cow or a pig を殺して beef or pork を生産する (We kill a cow or a pig to yield beef or pork.) 。 cow と pig は旧来の英語で、 beef と pork はフランス語由来だ。なぜこのように使い分けるのか? ノルマンに征服されていた時代のイングランドにあっては食卓についた金持ちのフランス語話者に仕えて屠殺の仕事をやるのは一般に英語話者の労働者だった。肉を意味する語の使い分けは各人の立場を反映していた。階級によってこのように区別する傾向は慎重に私たちの世代に受け継がれたのだ。

cow と beef の使い分けは屠殺業に関わっているか否かの違いが由来? この説も斬新。エッセイなのであっさりとした説明になるのは仕方ないけど文献的な裏づけが欲しいね。

語彙が混濁している言語は珍しくない。だが英語は大半のヨーロッパの言語に比べると混血の規模が大きい。たとえば "To be fair, mongrel vocabularies are hardly uncommon worldwide, but English’s hybridity is high on the scale compared with most European languages." という文は古英語、古ノルド語、フランス語、ラテン語から成る。それからギリシャ語も英語を構成する要素のひとつだ。もしも歴史が別の道に向かっていたなら私たちは photographs を "lightwriting" と呼んでいただろう。19世紀には科学的なものはギリシャ語の名称を与えられるべしという流行の考え方があった。かくして化学の語彙は判読できないものばかりになった。なぜ私たちは monosodium glutamate (グルタミン酸1ナトリウム) を "one-salt gluten acid" と呼んではいけないのだろう?

消防車の放水のような語彙の流入のおかげで語に対するストレスの置き方は2種類になった。 wonder に語尾をくっつけると "wonderful" 。だが modern に語尾をくっつけるとストレスを置く位置は語尾に引っ張られる形で移動する。つまり MO-dern に語尾をつけるとストレスの位置が移動して mo-DERN-ity になる。 MO-dern-ity ではない。WON-der -> WON-der-ful, CHEER-y -> CHEER-i-ly にはこれと同じことが起きない。しかし PER-sonal ではストレスの置き場所が移動して person-AL-ity になる。

何が違うのだろう? -ful と -ly はゲルマン語派の言語で使用されている語尾だ。他方 -ity はフランス語から来た。フランス語とラテン語の語尾はストレスの位置を自分のほうに引き寄せる - TEM-pest -> tem-PEST-uous. 他方ゲルマン語派の語尾はストレスの位置をそのままにする。

CIvil -> CIvilize, maTErial -> maTErialize の場合はストレスの位置は変わりないね。-ize はそれ自体に第2ストレスを置く接尾辞だから強弱を2拍のリズムとする英語の作法に従うと第1ストレスの位置を変えないのは妥当なんだろうけど。

時間を示す前置詞は船を思い浮かべれば間違えない

英語で日付とか時刻を表すのに使う前置詞 at, on, in を間違えないコツ。時刻は零次元の港なので at 、世紀と年と月は1次元の川なので in 、年月日と曜日は船なので on …と覚えればいい。

  • at - o'clock - 零次元, 港 (at the port) (e.g. at seven o'clock)
  • in - century, year, month - 1次元, 川 (in the river) (e.g. in 2015)
  • on - day - 船 (on the boat) (e.g. on Saturday)

カレンダー
File:Petaluma and Santa Rosa Railroad Co. Calendar.jpg - Wikipedia, the free encyclopedia

日付 (date) と時刻を表すのに使う英語の前置詞 "in", "on", "at" 。これらの使い分けは難しくない。世紀と年と月は in 、何月何日または曜日は on 、時刻は at 、という単純な決まりがある。これを覚えるだけ。

  • in the 21st century
  • in 2015
  • in April
  • on April 2nd
  • on Friday
  • at three o'clock
  • at three-twenty

でもなぜ3種類の前置詞を使い分けるのか? 「非英語ネイティブにとっては面倒だから統一すればいいのに」と誰もが一度は考えたことがあるだろう。仮に自分がエスペラントみたいな新言語を作るとしたら絶対1種類にする。しかしイギリス人たちはそうしなかった。

なぜ3種類の前置詞を使い分ける必要があるのだろうか?

前置詞 at は零次元を指し示すポインター

まず at について軽く復習。 この前置詞は「点」あるいは「零次元」を指し示すポインターだ。

  • arrive in London
  • arrive at the house

"arrive in London" はロンドンが *相対的に* 大きく見えるイメージ。絶対的な大きさはあまり関係ない。人が自分よりも大きなロンドンの「中のどこかに到達する」というイメージ。

"arrive at the house" は家が *相対的に* 小さく見えるイメージ。絶対的な大きさはあまり関係ない。人工衛星が撮影した写真に映っている「点」「零次元」としての家。地図に「点」「零次元」として掲載されている家。実際の家が巨大な屋敷であっても地図とか衛星写真だと点として見える。 arrive in と言わずに arrive at と言うのは、人工衛星とか飛行機から点のように小さくなった地上の建造物を見ているようなものだ。こういう感覚を作り出すには「何かを包み込む」前置詞 in ではなく「零次元をポイントする」前置詞 at のほうが適している。

ちなみに "arrived at the port" site:.edu と "arrived in the port" site:.edu でGoogle検索するとわかるが、 "at the port" と "in the port" の割合は前者がやや多い。だが in the port でも間違いではない。

ポインターとしての前置詞 at 。これを絵として描くと矢とか矢印になる。何かにグサっと突き刺さっている矢とかナイフを思い浮かべればいい。

矢

上の絵が示すように、 at という前置詞には何かに突き刺さる感覚、鋭角的な感覚、厳しい感覚がある。だから at は mad, angry, shocked, surprised などネガティブな意味を持つ動詞の過去分詞または形容詞と相性がいい。

  • mad at...
  • angry at...
  • shocked at...

逆に "pleased at..." とは普通言わない。"pleased with..." という形のほうが自然。pleased とか satisfied はポジティブな感覚だから。

o'clock は幅がない零次元なので前置詞は at

at が零次元をポイントする前置詞であることを理解できれば時刻を表すのにこの前置詞が使用される理由が明確になる。たとえば "eight o'clock" は「08時00分00.0000....秒」という意味。つまり eight o'clock は点であり零次元。"nine-twenty" は「09時20分00.0000....秒」という意味。つまり nine-twenty は点であり零次元。だから eight o'clock と nine-twenty を示す前置詞は at だけだ。on とか in は普通使えない。

year, month, day は幅がある1次元なので前置詞は at ではなく in または on

o'clock は零次元。他方 year, month, day は幅がある1次元だ。たとえば day には24時間という幅がある。year には365日間という幅がある。点ではない。零次元ではなく1次元だ。だから at は普通使えない。使える前置詞は in, on のいずれかになる。

year と month には in を使う。曰く "in 2015", "in June" 。ところが day には on を使わなくてはいけない。曰く "on August 5th", "on Wednesday" 。

century と year と month に in が使われる理由は単純明快。たとえば "in October" と言うとき「10月の中のいずれかの日」という感覚がある。同様に "in 1988" は「1988年の中のいずれかの日」という意味になる。いずれかの日を「包み込んでいる」から前置詞は in がふさわしい。

ではなぜ day だけが on なのか? これが最大の謎だ。

"on April 21st" の on は "on duty" の on と同じ感覚

プログレッシブ英和中辞典から "on" の解説を引用する。

9 ((状態・経過))

(1) …の状態で, …中で

on leave [strike] - 休暇[ストライキ]中
a police officer on guard - 警戒にあたっている警官
be on fire - 燃えている
be on the move - 動き回っている;出発する
be on exhibition [trial] - 展示[公判]中である
Crime is on the increase [the decrease]. - 犯罪は増加[減少]しつつある.

onの意味 - 英和辞典 - コトバンク

on の原義は「接触」であり、そこから「依存」とか「依頼」という副次的な意味が派生し、さらにプログレッシブ英和中辞典が説明するように「従事」「…している最中である」「…の状態である」という意味が生まれてきた。だが本来の「接触」「何かにべったりと貼り付く」という意味が失われることはない。

以下2つの文を比較してみよう。

he was on duty
(仕事にべったり貼り付いている)
勤務中。
He gave up drinking on February 28th in 2015.
(2月28日にべったりと貼り付いている)
人が "February 28th" という名の船に乗っている。船なので前置詞は on 。この船は "2015" という時間軸の川を進んでいる。船の名前は Friday とか Wednesday でもいい。

船
Free vector graphic: Boat, Flag, Pirates, Rowboat - Free Image on Pixabay - 307603

日付を表す名詞の中で最小な day は船のようなもの。だから前置詞は in ではなく例外的に on になる

century, year, month, day というグループについて考えよう。前述したように o'clock は零次元なのでここから外れる。つまりこの中で最小なのは day だ。ここが肝要。非常に重要。

on は「べったり貼り付く」前置詞。 in の代わりに on を year とか month と組み合わせることはSFのような突飛な文脈の中なら論理的に可能だ。でも日付を表す名詞の中で最小なのは day だ。上の絵にあるように day は船のようなもの。それゆえ行為者が実際に貼り付く相手は year でも month でもなく day になる。 century と year と month は常識的な感覚として in で表されるのに day だけが例外として on を伴うのはこういう理由があるんだと思う。

まとめ(というか効率的な暗記の仕方)

  • at - o'clock - 零次元, 港 (at the port)
  • in - century, year, month - 1次元, 川 (in the river)
  • on - day - 船 (on the boat)

…と覚える。

Google
WWW ArtSaltのサイドストーリー
このブログについて

最近のエントリ

カテゴリー
あわせて読みたいブログ

あわせて読みたい

最近のコメント
相互リンク