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辞書編纂者の勘違いとコピペの歴史

"an oyster of a man" という、間違いではないものの現代英語では見聞きすることのない表現がかつて日本の英語学習本や辞書にあったんだとか。これは半世紀以上前の日本の英語学者によって書籍で紹介され、それが他の辞書に掲載されたのだと思われる。さらに韓国と中国の英語学者たちがそれを真似て英語学習の書籍に紹介してしまった可能性が高い。

内田樹さんが先日おっしゃっていたことを以下に引用。

その副編集長があるとき竹信のところに来て、どうもわからぬことがあると言う。
どうして日本人は「彼は寡黙な人間である」というときに he is an oyster of a man というネイティヴでもまず使うことのない古めかしい英語表現を好んで用いるのであるか、というのである。
竹信は呵々大笑して、それはわれわれが受験勉強のときに必須の参考書であった山崎の『新々英文解釈』の最初の頁にある例文だからであり、どんな不勉強な高校生でも、そこまでは覚えたのであると説明したのだそうである。

彼は牡蠣のように寡黙な人だ (内田樹の研究室)
多くのブロガーが指摘しているように、現代英語ネイティブの人たちは "an oyster of a man" について「何それ?」という反応を示すらしい。そこで "an oyster of a man" という表現を Google Books で調べたところ興味深いことがわかった。これが見出されるのはほとんど日本、中国、韓国の文献なのだ。
"an oyster of a man" - Google Books

最も古いのが1940年出版の Kenkyusha's new Japanese-English dictionary だ。おそらく武信由太郎氏の「新和英大辞典」だろうと思われる。1950年代までを時系列に沿って並べる。

  1. Kenkyusha's new Japanese-English dictionary
    Yoshitaro Takenobu - Foreign Language Study - 1940
  2. Kenkyusha's New English-Japanese Dictionary on Bilingual Principles
    Tamihei Iwasaki, Jujiro Kawamura, Sanki Ichikawa - English language - 1952
  3. Kenkyusha's New Japanese-English Dictionary
    Senkichiro Katsumata - Japanese language - 1954
  4. 英文漢譯例解
    舒通 - Foreign Language Study - 1958
  5. Sanseido's new concise Japanese-English dictionary
    Fumio Nakajima - Japanese language - 1959

先頭3冊は研究社の和英または英和辞典。4番目の「英文漢譯例解」は中国語で書かれた本。書名から察するに文法書か。5番目は三省堂の和英辞典。高名な英語学者、中島文雄さんのお名前がある。ここでは省略したが、1960年代以後は韓国の辞書も登場する。

日本語、中国語、ハングル以外の文献に関して言えば Geoffrey Chaucer, William Shakespeare の時代にまでさかのぼっても数冊しか存在しない。つまり Google Books Archive を信頼するならば、地球上で "an oyster of a man" が見出されるのはほとんどが日中韓の書籍(辞書と英語学習本の類)であると断言してよい。

ふと思った。最初にこの "an oyster of a man" を英語学習関係の書籍で紹介したのは日本人で、それに釣られて研究社以外の日本の出版社のみならず中国と韓国の英語学者たちがそれを真似てしまったのではないか、現代英語ネイティブにとっては聞き慣れない表現であることを知らずに。

だがオイラはこれを指弾するつもりは全くない。想像してみよう、英語の辞典を編纂しようとする人たちのやることを。その手順を。

  1. さて、辞書をつくろう。
  2. 最初は "a" で始まる語彙だよね。それじゃ abnormal, absent, abstract, acknowledge.... の意味を書くとするか、とりあえず。
  3. abnormal よりも先に来なければいけない語彙は存在しないかじっくり考えないといかん。ええと aah とか aba...
  4. うーん、やっぱ何か手本になるものがあればいいなぁ。そういえば研究社さんが立派な辞書を出していたっけ。(自分の仕事を放り投げ、研究社の辞書を読みふけってしまう)。"an oyster of a man" なんて表現があるのか。これは知らんかったわ。
  5. (数ヶ月後)さて、そろそろ "o" で始まる語彙にとりかかろう。oyster の項目を記述しなきゃね。そういえば "an oyster of a man" というちょっと洒落た表現をどこかで聞いたっけ。何の本だったかな。
  6. (何の本だったか思い出せず)…まあ、いいや、これを自分の辞書で紹介しよう。

というわけで辞書編纂者は先人たちの辞書を参考にする。この行為が結果的に現代で言うコピペ作業に近いものになったとして、誰が非難できよう。そして日本の英語学者の偉大なる勘違いが韓国と中国に伝染してしまったという憶測が正しければ、それは、彼らの業績が少なくとも中国人と韓国人からは高い信頼を得ていることの証左でもある。私たち日本人は複雑な思いでこの勘違いの連鎖を誇っていい。

Google
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こんにちは。
昔は oyster を「無口な人」という意味で使っていたようですね。
OEDに、A reserved or uncommunicative person、という定義があり、

I never saw such an oyster.(1925)
I never knew anybody so close, you old oyster you!(1930)

という例文が載っています。
※an oyster of man という表現は載っていません。

日本の辞書では、1915年刊の、齋藤秀三郎『熟語本位 英和中辞典』にも、an oyster of man 無口な人、とあります。

大辞典のように、古典を読むのに使う辞書はともかく、学習辞典に載せるのはどうでしょう?
「ジーニアス第4版」にも、(古俗)無口な人、口の堅い人、と出てます。

古い表現だと知りつつも、思わず載せたくなるのでしょうかね?
自分はそういう人間味がある辞書は好きですが。
日本の辞書に根付いた、「実用無視の、趣味的表現」が、中国や韓国の辞書にも影響を与えているのは、なんだか嬉しい感じがします。
2010/03/08(月) 21:04:56 | URL | まさんた #aLYDs0pg[edit]
ごぶさたしております。歴史ある文献のご紹介ありがとうございます。非常にためになります。
話は変わりますが、「洋書と英語の日々」の再開を楽しみにしております。
2010/03/09(火) 19:48:40 | URL | ArtSalt(管理人) #-[edit]
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