ArtSaltのサイドストーリー

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追悼:ジム・ホールの心暖まる逸話

ジム・ホール (Jim Hall) が亡くなったというニュースを昨日聞いた。ジム・ホールは私にとっては一番大好きで一番偉大なギタリストだった。本当はジム・ホールの素晴らしいギターを聴けるレコードとCD(←嫌になるくらいたくさんある!)をここにずらりと並べて思い出に浸りたいのけど今の自分は音楽をじっくり聴く機会があまりない。そんな自分を情けないと思っているのでここでは遠慮して数枚のCDに言及するにとどめておき、日本ではあまり知られていないであろう1950年代のホールの面白いエピソードを紹介しておく。


1950年代中ごろから頭角を現すことになるホールのギターはそれまでのギタリストたちのシングルトーン重視のギターとは明らかに違うスタイルだった。チャーリー・クリスチャンやウェス・モンゴメリーらに比べてジャズの歴史書で取り上げられることが少ないのが不思議だが個人的にはテナーのジョン・コルトレーンやピアノのビル・エバンズやドラムのエルビン・ジョーンズと同じぐらいのスタイリストだと思っている。ブロックコードを効果的に使う。弦の音を意図的に小さくする。使う音の数を少なくする。低い音を出す。くすんだ音を出す。ごく稀にオクターブ奏法を使う。全く音を出さない時間帯がある…などなど、ギターの音に多種多様な表情を与えることに成功したのがジム・ホールの功績だと思う。明らかにジム・ホールは新しい演奏のスタイルを作り出したのだ。

こういうギターはそれまでなかったからホールはたくさんのバンドに引っぱりだこになった。それゆえに自分自身のバンドを作ることが難しくなってしまい、1970年代に入るまでホールの名義になる吹き込みは驚くほど少ない。逆に言えば数多くの名盤のサイドマンとか共演者としてジム・ホールの名前を見ることが多くなったのでこれはこれで良かったとも言える。

1950年代から60年代までのホールの仕事を調べるとその余りにも広い活躍の場に驚く。ホールをレギュラー・ギタリストとして招聘したジャズマンの名前をざっとあげてみると、チコ・ハミルトン、ジミー・ジュフリー、ポール・デズモンド、ソニー・ロリンズ、アート・ファーマー、ビル・エバンズ等々。ジャズ界の巨人だらけだ。もちろんイレギュラーの仕事もどんどん来た。そういえばフリー・ジャズのオーネット・コールマンとの共演なんてのもあった。私はジャズ以外の音楽のことはあまり知らないのだけれど、近年はジョン・スコフィールドとかパット・メセニーらとも一緒に仕事をしていたらしい。それにしてもこれだけ様々な音楽家との共演が多いのは音楽性だけでなくホールの人徳も関係してたと思う。

たまたま今Kindleで読んでいるビル・クロー (Bill Crow) の自叙伝 "From Birdland to Broadway: Scenes from a Jazz Life" の中にジム・ホールに関する心暖まる面白い逸話が出てきたので少しだけ引用しておく。この本は村上春樹さんの邦訳(邦題は「さよならバードランド」)で知られるけど今手元に日本語版の本がないので翻訳は私が適当にやっておいた。内容から察するにおそらく1950年代後半の場面だと思う。

この本を書いたビル・クロウは1950年代初頭から活躍するベース奏者。スタン・ゲッツ、ジェリー・マリガンなどの吹き込みで彼の名前をよく見るからクロウの名前を知っている人は多いと思う。

ジミー・ジュフリー・トリオがニューヨークに来たとき僕とデイブ・ランバートはビレッジ・バンガードに聴きに行った。ギターはジム・ホール、ベースはジム・アトラス。僕らはすぐに友達になった。ジム・ホールと僕は和気あいあいで楽しい話をして盛り上がった。ホールのユーモアのセンスは抜群だった。ある晩ホールとジュフリーとボブ・ブルックマイアーが僕のアパートメントにやって来た。僕らはいろんなバカ話をした。ホールは両手を後ろに回して暖炉に寄りかかっていた。このとき僕はホールの琴線にふれるような何か面白いことを言ったらしくて、彼は爆笑して体が引きつってしまい、その弾みで左側の肩の関節が外れてしまった。ホールはあまりの激痛に涙が出そうになっていたけどそれでもずっと笑い転げていた。

ブルックマイアーとジュフリーが大急ぎでジム・ホールをセイント・ビンセント病院に担ぎ込んだ。そこには緊急治療のスタッフがいてホールの外れた肩を元に戻してくれた。ジミー・ジュフリーのトリオは次の日にスタジオのレコーディングの仕事を予定していたのでジュフリーはホールがギターをちゃんと弾けるのか心配だった。ところが肩が痛むだけでなく動かすのも難しかったにもかかわらずホールは膝をうまく使ってギターを普通に弾いてみせ、その仕事をこなした。それ以来僕はジム・ホールに面白おかしい話をするときは気をつけるようにしている。

Amazon.com: From Birdland to Broadway: Scenes from a Jazz Life eBook: Bill Crow: Kindle Store

ジム・ホールはジャズ以外のギタリストたちにも強い影響を与えたらしい。下のYouTubeで聴かれる演奏 (Art Farmer - The Reluctant Groom [Den Motstravige Brudgummen]) を聴けばその理由がなんとなくわかると思う。ホールのスタイルは明らかにジャズに興味ない層にも受けるスタイルだったのだ。これは本当にすごいことだと思う。1964年の演奏。

もうひとつ。クラリネット奏者 Bill Smith の "Greeensleeves" 。この曲が入っている "Folk Jazz" というCDを数ヶ月前買ったのだけど、既に100回以上繰り返し聴いている。個人的には1万円以上の価値があるアルバムだと思っている。1961年の演奏。

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はじめまして、mazuと申します。おちゃらけで音楽紹介のブログを書いてます。

実はギターおたくでもありまして、このたびのジム・ホールの逝去の報に接し、深い悲しみの中、追悼記事を書かせていただきました。

そしてついジム関連のブログをチェックしていて、貴ブログを見つけて内容の素晴らしさに感動するとともに、あらためてジムの偉大さを偲びました。

つたない記事ですが、ぜひお立ち寄り&お立ち聴き(音源のせてます)下さいませ☆

http://ameblo.jp/musiclover2920042/entry-11727486710.html
2013/12/13(金) 08:50:11 | URL | mazu #-[edit]
はじめまして。ブログを拝見しました。ジム・ホールさんの演奏の動画を見ましたけどやはり素晴らしいですね。コメントありがとうございます。
2013/12/13(金) 21:07:02 | URL | ArtSalt(管理人) #-[edit]
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